シュレット・セミナー中止に至って考えることカイロプラクティックジャーナル

  シュレット・セミナー中止に至って考えること

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シュレット・セミナー中止に至って考えること

科学新聞社シュレット・アジャストメント・セミナー コーディネーター:櫻井 京

先にご案内の通り、シュレット・アジャストメント・セミナーは中止に至りました。私は過去4回このセミナーのコーディネーター兼通訳を務めさせていただきましたが、このことをどう捉えればよいか戸惑う思いです。今回の経緯と私の考えをここに示し、今後について検討していきたいと思います。日本でカイロプラクティック関連のセミナー運営に関わっている方はたくさんおられますので、皆さまのご意見も今後お伺いできたらと思っています。

WFCの政策声明について

WFCは、2009年12月「カイロプラクターによる非カイロプラクターへの関節アジャストメントのコースに関するWFC声明」を採択したそうです。「そうです」と書いたのは、この声明は少なくとも2010年7月15日までは、WFCのウェブサイト、JACのウェブサイトともに掲載されておらず、WFC関係者以外がこの声明を知ることはほぼなかったからです。

WFCとJACはこの声明採択に関するアナウンスを実質的にしていませんでした。当ウェブサイトの「ドクター・シュレット「アジャスティング・セミナー」in 東京の中止と岡井健D.C.によるセミナー開催のお知らせ」でそのことを指摘すると、ほどなくしてWFCが声明をウェブサイトにアップしました。Courses by Chiropractors for Non-chiropractors in Joint Adjustment and in Clinical Skills except Joint Adjustment


2009年のWFCの声明

(2010年7月20日現在)察するに当ウェブサイトや日本での動向に対し、WFCが関心を持っていただいているということは複雑な気持ちです。前置きが長くなりましたが、2009年のWFCの声明の内容の要旨です(全文訳はJACから出されるものと思います。)。

カイロプラクターは、関節アジャストメントを内容に含む教育コースを、正規カイロプラクターとその学生のみに限定すべきである。

カイロプラクティック専門職を統制する立場にあるWFCの会員団体および他団体は、このポリシーに反する行為をカイロプラクターが行うことを阻止するために、できるだけの行動をすべきである。

このポリシーの目的としての関節アジャストメントの定義は、徒手、機械的手段、機器によるマニピュレーションとモービリゼーションおよび関連する検査法である。

正規カイロプラクターとその学生とは、正規のカイロプラクティック・アクレディテーションのあるカイロ大学か、または当該国のWFC会員団体(日本ではJACのこと)がコースやセミナーの提供を承認したカイロ大学の卒業生か在学生、と定義される。


WFCの1991年採択の声明

WFCの1991年採択の声明は、次のような要旨です。こちらはWFCのウェブサイトに始めから掲載されていました。JACのサイトには2010年7月20日現在掲載されていません。

ある国のカイロプラクターが他の国で、非カイロプラクターにカイロプラクティックを教えるプログラムやセミナーを行うことは、当該国のカイロプラクティックに対する承認と受容を阻害する。

WFCの会員団体はそのようなセミナーや教育プログラムを行うことに強く反対する。

したがって、WFC会員団体は、会員および当該国すべてのカイロプラクターが、そのようなセミナーや教育プログラムに関与するのを、できる限り阻止するためのすべてのステップを踏むべきである。また、会員団体は、WFCが適切な行動が取れるようにそのような活動について報告する。


1991年と2009年の声明の主な違い

1991年には、「非カイロプラクターに教えてはならない」と言及していたものを、2009年には、カイロプラクター=CCE基準およびWFC代表団体が承認した教育の修了者と定義し、それ以外の人には教えてはならないとした。

2009年には、声明の目的としてのカイロプラクティックを定義し、そこに脊椎だけではなく関節のアジャストメント、モービリゼーション、器具によるアジャストメントを含めた。

1991年には、非カイロプラクターへの教育すべてに言及していたが、2009年には、カイロプラクティックと定義したテクニック以外の軟部組織テクニック等は、非カイロプラクター(しかし承認または法制化された医療専門職のみ)に教えてよいと明記した。


これまでのWFCとJACの対応

1991年の声明は、主に米国のカイロプラクターが、カイロプラクティックの法規制がない国でカイロプラクティックを教えることにより、その国のカイロプラクティックの発展を阻害するとして、それを阻止することを目的に採択されたようです。当時はカイロプラクティックと言えば、脊椎アジャストメント・テクニックであり、他のテクニックや検査法についてはほとんど想定されていなかったと考えられます。したがってその後、カイロプラクターが、軟部組織のテクニックなどを教える時代になると、基本的には脊椎アジャストメントのテクニックセミナーのみが問題であるとの認識をしていたようです。

私は、WFCに直接質問したカイロプラクターから「WFCは脊椎アジャストメント・テクニックのみを問題にしているので、四肢は問題ないと言われた」と聞いています。JACもそのような認識だったようで、当サイトの「岡井健D.C.の「シュレット・アジャスティング・プロトコール-四肢のカイロプラクティック・アジャストメント-」セミナー」でも紹介している通り、岡井先生は、「過去にJAC関係者から「四肢のアジャストメントと、脊柱のアジャストメントもデモであれば、問題なし」という見解を直接聞いている」とおっしゃっています。

言った言わないの話をするのは不毛かもしれませんが、2009年声明以前には、WFCおよびJACで「脊椎アジャストメントの教育は禁止」との認識が普及していたことは事実でしょう。そうでなければ、モービリゼーションや検査法のセミナーが全く問題視されて来なかったことの理由が理解できません。

アジャストメント・セミナーに対するこれまでのJACの対応

2008年と2009年に行った「シュレット・アジャスティング・プロトコール・セミナー」については、JACのウェブサイトの「セミナー・学会情報」で紹介されています。特に2009年は脊椎アジャストメントが含まれることを当ウェブサイトでも紹介していましたが、別段問題にしないばかりか、紹介までしていただきました。過去4回のシュレット・アジャストメント・セミナーに対して、JACから何かコメントされたことは一度もありません。

2010年のアジャストメント・セミナーに対するJACとWFCの対応

JACは主催者である科学新聞社やセミナー講師であるシュレットD.C.に全く連絡を取ることなく、7月上旬に、WFC事務局長および関係者に日本で開催されるシュレットD.C.のアジャストメント・セミナーはWFCのポリシーに抵触するのでなんとかするようにとの文書と科学新聞社の広告を送付しました。その後すぐ、WFC事務局長から講師のシュレットD.C.宛に、参加者に認定カイロプラクティック教育受講者以外が含まれるセミナーを日本で開催することはWFC声明に反するのでやめるように求めるメールが送られました。これに2009年のWFC声明文が添付されており、初めてその存在を知らされることになりました。

シュレットD.C.には他にもセミナー活動の主なスポンサーである会社から、日本でセミナーを開催した場合は来年のセミナーはすべてキャンセルするとのメールが届きました。この会社はWFCの強力なサポーターです。突然非難の手紙を受け取って渦中に巻き込まれたシュレットD.C.はお気の毒だったと思います。名指しで糾弾するなどこれ以上の被害が及ばないことを願っています。一方で、これまでいろいろと準備してきたものを、JACが「上に一言言いつける」という行為に出て、それを受けたWFCが簡単にしかし恫喝的にメールを講師本人に送りつけることにより、あっけなく壊されてしまったことは無念です。


WFC声明に対する意見

WFCの新声明(2009年)が出る前であっても、1991年の声明と、WFC教育憲章から考えると、今回のセミナーは、WFCの意向に沿わなかったと言えると思います。口頭でWFCやJAC関係者から「脊椎のアジャストメント以外は問題ではない」と聞いてはいましたが、セミナーに脊椎が含まれていましたし、声明を文面通り解釈するなら、今回のセミナーは趣旨に合いません。

しかし、私たち(私個人および科学新聞社)は、WFCとは違う意見を持っています。WFCの声明や意見に対し、無条件に賛同し準拠することはできません。例えば、WFCのカイロプラクティックの定義は、カイロプラクティック=専門職としていますが、私には賛同することができません。

WFCのカイロプラクティックの定義

━━━A health profession concerned with the diagnosis, treatment and prevention of mechanical disorders of the musculoskeletal system, and the effects of these disorders on the function of the nervous system and general health. There is an emphasis on manual treatments including spinal adjustment and other joint and soft-tissue manipulation.
筋骨格系の力学的障害とそれがおよぼす神経系機能と健康全般への影響を、診断、治療、予防する専門職である。特に脊椎アジャストメントと他の関節と軟部組織マニピュレーションを含む徒手治療が強調される。━━━

カイロプラクティックは専門職、つまり職業名であるということです。職業に焦点を当てるのであれば、自ずとその職業を規制したり、標準化したりすることに力を入れるでしょう。

現にWFCは、
1.カイロプラクティック教育、研究、臨床の実施の高い基準を促進する
2.カイロプラクティック専門職のメンバーを統合し、専門職の憲章と声明を守る
ということを重要な役割として挙げています。

私は職業としてのカイロプラクティックよりも、哲学・科学・芸術としてのカイロプラクティックに興味があります。日本の多くの人もそれに魅せられてカイロプラクティックを目指すのではないでしょうか。日本では職業としての確立はないのにこれほど多くの人がカイロプラクティックを学びたいと思っていること、それ自体がカイロプラクティックの強さだと思うのです。

また、WFCに同意できないもう一つのことは、WFC会員団体の権限にWFCがお墨付きを与えていることです。先に紹介した2009年の声明にも出てきますが、「当該国のWFC会員団体(日本ではJACのこと)はカイロ教育を認証できる(日本ではJAC承認のCSCのこと)」というものです。何かを認証する側には、専門職内外から客観性が認められるための裏付けが必要なはずです。それがないままに認証団体のお墨付きを与えることの悪影響にWFCは気づいていないようです。これについては別にまた述べたいと思います。

WFCは、声明に賛同しない人や団体を許容していただきたいと思います。今回のセミナーは、開催1カ月を切った段階で、WFCの強い反対が入り、中止を余儀なくされました。WFCはその意向に沿わない行為を妨害する権利があると考えているようですが、考え直していただければと思います。声明は法律ではありませんし、私は声明というものは、理想を文面にして掲げるものだと思っています。声明に反した場合、その団体の会員であれば除名などの制裁もあり得るでしょうが、会員でもないのに多大な影響力を受けなくてはならないのでしょうか。

WFCは会員かどうかにかかわらず、世界のカイロプラクティックを1つの職業として統制統合、あるいは標準化しようとしているように見えます。しかし、このような流れは、世界のカイロプラクティックの普及を加速させるかもしれませんが、既存の職業のあり方、教育のあり方に既得権益を与えるものでもあります。

カイロプラクティックはもっと自由なものではないでしょうか。「自由な学び方の中からもカイロプラクティックの将来の発展がある」ということを否定することは誰にもできないでしょう。そうであるならば、WFCの理念に反する場合であっても、正義の名のもとに断罪するような行為はやめていただきたいと思います。このようなセミナーのあり方に同意していただきたいと言うのではなく、ただ放任してくださいとお願いしたいのです。

長文を読んでいただきありがとうございました。JACに対しては申し上げたいこともございますが、また期を改めたいと思います。WFCに対しては、英語の壁が高いですが、私たちのセミナーの趣旨について申し入れをしたいと思っております。

2010年7月21日
科学新聞社シュレット・アジャストメント・セミナー
コーディネーター:櫻井 京

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