可動性亢進はなぜできる?カイロプラクティックジャーナル

  可動性亢進はなぜできる?

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Beyond Manipulation <第2回>可動性亢進はなぜできる?2011.06.26

カイロジャーナル71号 (2011.6.26発行)より

前回はフィクセーション・モデルについて説明した。フィクセーションとは脊柱、骨盤、四肢の関節の正常な可動性が制限された状態である。通常、フィクセーションそのものが痛みを起こすことはない。このように考えると、フィクセーションに対する矯正は痛みがあるところに行うのではないことがわかる。脊柱矯正を始めたばかり、あるいは練習しているときに可動性検査をして、可動性制限(フィクセーション)のある関節を矯正する練習をしてきた方がほとんどだと思うが、可動性検査をマスターするにつれ、症状を現す部位にフィクセーションが検出されることはほとんどないことに気づいてくると思う。

組織損傷が必ず存在

それでは、症状を現す部位(関節)の可動性はどうなっているのであろう。ここで言う症状はコリやこわばりなどではなく痛みとする。例えば炎症が起こっている場合、その部位には必ず組織の損傷が存在するということになる。結合組織、靭帯の損傷は組織が伸ばされたり、さらに断裂したりすることによって起こる。関節からの痛みは関節面の損傷や退行性変性がない限り、靭帯が引き伸ばされていることにより起こる。可動性としては亢進している状態である。言い換えれば、安定性が減少している部位である。

身体を支える脊柱では、安定性減少は体重負荷により症状を起こすケースが多い。それでは安定性減少、可動性亢進関節はどのようにしてできるのであろうか? 前号でも述べたが、フィクセーションは結合組織の圧迫により起こる。可動性亢進は結合組織の伸長により起こる。これは外傷的なものも含んでいるが、根本的なものとして正常な最大可動域を超える、わずかな伸長の繰り返しである。

仮に腰椎5つの骨の間の関節の回旋の動きをそれぞれ等しく10とする。5つの腰椎で50の回旋可動域があるとする。1つの関節に持続的な圧迫が加わり、フィクセーションが起こる場合、その関節の可動性が6になったとする。この場合、今までと同じ50の回旋の動きを行うためには、フィクセーションを起こしている関節のために、他の4つの関節は11動かなければならない。

これは通常、代償作用と呼ばれるが、フィクセーションの関節以外の4つの関節に均等に代償作用が起これば、その影響はわずかであるが、これが1つの関節に起こるとすると、14動かなければならない。また、さらにフィクセーションがある関節の可動性が3であるとすると、17動かなければならない。こうなると代償作用を起こしている関節の動きを制限している靭帯などの結合組織は、限界以上に伸長され、関節を固定する役割を果たせなくなる。

要するにフィクセーションの程度と代償作用の程度が問題であると言える。脊柱の中で可動性制限がある場合、正常な可動域を維持するためには、必ず他の部位の代償作用、可動性亢進、安定性減少が起こらなければならない。これが長期にわたると、この2つの差はさらに大きくなり、可動性亢進、安定性減少部分に症状が現れることになる。腰部の急性の腰痛、ぎっくり腰と呼ばれるようなもので、靭帯損傷、炎症が起こっているような場合、その原因を聞くと些細なことで起こっているケースは珍しくない。

これは、最終的に炎症を引き起こすに至る靭帯の伸長がすでに繰り返され、代償作用によって可動性亢進状態が進み、最後のトドメとなった動作はきっかけでしかないと考えられる。時に患者は「今まで、同じことをしてもなんともなかったのに」と言うが、なんでもなかったはずはない。それは症状として出ないだけであり、おそらく可動性の制限と亢進が存在していたと思われる。外傷的な捻挫にしても、症状を起こすことなく代償作用を起こしている関節や、可動性が大きい関節で起こる可能性が高くなる。

自覚症状がないだけ

脊柱の例で言えば、第5腰椎の屈曲可動域が亢進した状態で、第1腰椎の可動性制限がある場合、第5腰椎の屈曲による症状を軽減させるためには、第1腰椎の屈曲可動域制限に対する代償作用を軽減させれば良いことになる。これは第1腰椎の屈曲可動域制限を解除することである。患者が屈曲により第5腰椎部に痛みを起こす場合、腰椎だけではないが屈曲制限のある椎骨を検出して矯正することになる。第5腰椎の屈曲により繰り返し過度の伸長を受ける結合組織は、過度の伸長、組織の損傷を受けることはなくなる。

このような可動性制限と可動性亢進の関係は、脊柱において最も顕著に見られるが、四肢において起こるケースも考えられる。胸鎖関節の上方への可動性が制限される場合、肩甲上腕関節外転時に起こる鎖骨外側端の上方への可動性が制限されることになる。この状態で肩甲上腕関節の外転を繰り返す場合、肩鎖関節の可動性亢進が起こることになる。この場合、臨床的には直接、肩鎖関節の症状を起こすことは少ないが、肩鎖関節可動性亢進による上部僧帽筋や三角筋過緊張、これに続くインピンジメント症候群が起こることもある。

患部が可動性亢進の場合や結合組織の損傷によるものである場合、矯正は症状のある部分に行うことはない。これらの考え方は、脊椎すべり症、仙腸関節捻挫、一部の間欠性跛行、むち打ち症などに対する治療の一部として適用可能である。実際の臨床において初診時に可動域を検査する状態で、痛みの出現、悪化が起こる場合、この理論は適用可能である。側屈で痛みが出る場合、基本的に患部以外の部位で、側屈制限を起こしている部位にマニピュレーションを加え、回旋で痛みが悪化するのであれば、同方向の回旋制限に対してマニピュレーションを加える。

フィクセーションを探し出すための可動性検査を行う場合、このようなコンセプトは当然のことであるが、可動性検査を行わない場合、椎骨のズレが原因で症状が出ると考えてしまい、その部位にロータリーブレイク、ランバーロール、サイドポスチャーなどの矯正(通常は可動域制限がある関節に対し、いずれも関節の最大可動域を超えるスラストを用いる矯正法)を加えてしまうと、症状の悪化につながる可能性は大きいであろう。

できることたくさん

このように、フィクセーションに対する可動性検査と矯正により様々な脊柱、四肢の状態を治療するためには、各疾患を可動性を基に理解、分析していかなければならない。脊椎すべり症はレントゲン像では椎体が前方に滑っている状態が写るだけである。靭帯が写ることはない。しかし、その状態で結合組織はどうなっているのか、可動性はどうなっているのか、推測できなければ、矯正、マニピュレーションによる治療は難しくなる。

筋骨格系の問題はまずは整形外科的な疾患を、可動性を基に考えることが重要である。間欠性跛行で歩行時に痺れが出て、立位では症状が出ない場合、その違いは可動性である。一見難しいと思われる疾患でも、われわれにできることはたくさんある。なぜなら、他の医療分野にはフィクセーションというコンセプトや、そのための可動性検査の方法が存在しないからである。このため、われわれ手技による治療を行う者は、しっかりとこのコンセプトを理解し、患者の状態に適用させ、さらに発展させていかなければならないと思う。

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