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Beyond Manipulation <第6回>筋紡錘テクニックを考える 2012.11.04

カイロジャーナル75号 (2012.11.4発行)より

臨床で筋の過緊張や短縮などを扱うケースは少なくない。しかし、筋の過緊張の原因を考えなければならない。1つの原因として、筋紡錘を含む筋の神経支配の異常がある。この部分を理解するために神経学的な機能を考えることにする。

筋は、筋線維の束が筋膜により包まれている。しかし、これらの構造だけでは何も起こらない。神経による刺激が必要である。それならば、筋が神経によりどのように刺激され、コントロールされるのかを理解する必要があるのではないであろうか。

まずは筋をコントロールするためには、筋の状態をモニターする必要がある。筋の状態をモニターするためには、受容器が必要である。これらは、筋紡錘とゴルジ腱器官である。ゴルジ腱器官は、筋線維が腱に移行する部位に存在し、筋に加わる張力をモニターする。ゴルジ腱器官は、過度の伸長、特に急激な強い伸長から筋線維を守るために、筋の収縮を抑制して、弛緩させることはよく知られているが、ゴルジ腱器官は、過度の張力が加わらない状態でも、常に刺激を受け筋の緊張度を調整するために上位中枢にその情報を提供している。特に上位中枢による筋の緊張度のコントロールに重要な役割を果たしている。これは筋の緊張度にかかわるため、過緊張筋に対する治療で考慮しなければならない部位である。

もう1つの受容器は、筋紡錘である。筋紡錘は筋腹に存在し、全長3~10ミリほどで、横径1ミリほどで紡錘形の構造である。骨格筋では1グラム中に5~10個以上存在する。

筋紡錘は、錘内線維と呼ばれる収縮性線維と受容器部位を含む数本の線維が紡錘状の結合組織のシートにより覆われ、液体で満たされている構造である。
筋紡錘の両端は収縮性があり、アクチンとミオシン・フィラメントを含んでいる。また中心部は収縮性の線維を欠き、この部位は受容器として機能する。

筋紡錘は、筋腹の筋線維の間に筋線維と平行に存在する受容器で、その両端は筋線維に付着している。筋紡錘は、筋が引き伸ばされることで興奮して筋紡錘を含む筋を収縮させるが、筋紡錘両端の錘内線維が収縮することでも興奮する。

筋紡錘には、2つの種類があり、これらは、核袋線維と核鎖線維と呼ばれる。核袋線維は中心部が膨らんだ形状で、核鎖線維は細長い形状である。筋紡錘は筋の長さの変化や緊張度などを調節する。核袋線維と核鎖線維は、それぞれ筋長の変化の割合、筋の長さそのものに反応する。

筋紡錘の受容器部位の伸長は、筋を収縮させることになる。筋紡錘が原因で筋が過緊張になる場合、筋紡錘の中心部が伸長された状態に維持される、あるいは持続的に刺激されるということになる。これは、錘内線維の緊張度が高い状態、あるいは、筋そのものが伸長された状態が持続しているということも考えられる。

錘内線維の緊張度が高い。これは高γゲインなどと呼ばれるが、これは、拮抗筋のゴルジ腱器官からの促進、あるいは中枢神経系からのγ運動ニューロンの刺激、相反性神経支配による拮抗筋のゴルジ腱器官からの促進では、拮抗筋もさらなる過緊張状態にあると考えられる。この場合、作用する関節は、相反する可動性の制限が起こることになる。錘内線維の緊張度が中枢神経系によるコントロールである場合、問題はより複雑になる。

 

過緊張状態で筋紡錘の中心部が伸長された状態が維持される場合は、錘内線維を包む膜構造の短縮、癒着、またはその中に含まれる液体の粘度の上昇が考えられる(図)。

筋線維と結合組織内の筋紡錘

筋線維と結合組織内の筋紡錘

AKでいう筋紡錘テクニックは、このような状態であると考えられる。通常、筋紡錘の触知は困難であるが、このような状態であれば硬縮として触知される可能性は高い。これら、錘内線維を包む膜構造の短縮、癒着、またはその中に含まれる液体の粘度の上昇などの変化がない場合、筋紡錘に近接方向の押圧を加える場合、その効果は一時的に筋紡錘を刺激するだけであり、持続的な効果は期待できない。徒手医学において、手で神経システムの異常を扱えるものとしては、神経システムの異常を起こす原因が短縮、癒着、間質液などの粘度の上昇などでなければならない。一時的な刺激により一時的な変化による改善は考えにくい。


ゴルジ腱器官についても同様のことが考えられる。ゴルジ腱器官が興奮しているため、前角細胞に抑制性の興奮が加わることになる。ゴルジ腱器官を含む筋の筋紡錘の錘内線維の緊張度は下がり、拮抗筋の緊張度が上昇する可能性がある。ゴルジ腱器官が原因でこのような状態にある場合、ゴルジ腱器官を興奮させるための原因がなければならない。これはゴルジ腱器官を含む腱の組織の硬縮である。ゴルジ腱器官は筋に張力が加わることで興奮するが、実際には腱のコラーゲン組織の間に存在する自由神経終末がコラーゲン組織への張力により圧迫されて興奮する。もしも、この腱自体に硬縮や退行性変性などにより圧迫が加わる場合、同じようにゴルジ腱器官を興奮させることになる。この場合、筋をストレッチしたり、自動収縮させたりしたとしても効果は一時的なものになる。協力筋や拮抗筋の腱の硬縮や退行性変性に対する治療が必要になる。


筋のストレッチや作動筋、拮抗筋などの自動収縮などによる緊張度の変化に持続性がない場合、これらの受容器を異常に刺激する結合組織や間質液の異常などを考慮するべきである。

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