Beyond Manipulation <第7回>頭蓋治療を考える。2013.02.22
カイロジャーナル76号 (2013.2.22発行)より
カイロプラクティック、オステオパシーなどの手技療法の中で、頭蓋骨を調整するテクニックがある。美容などの関係では小顔などのために頭蓋に施術を加えるということも耳にしたことがある。
手技療法での頭蓋調整は、治療を目的として使用される。頭蓋骨、顔面骨に、その形状を変化させる目的で施術を行うことは、医原性障害を起こす原因にもなり得ると考えられる。頭蓋障害の施術は、そのテクニックをそのまま、障害がない部分に加えることはできない。したがって、頭蓋調整のための施術法のみマスターするだけでは、治療のための頭蓋調整を行うためには不十分である。
筆者自身もセミナーでは、頭蓋治療を扱うことがある。頭蓋の解剖、動き、その機能などを含め施術法を紹介しているが、時折どのようなときに使えばよいのかという質問を受けることがある。そのために頭蓋の解剖、動き、機能の理解が必要になるのだが。とかく頭蓋調整法というと、何にでも効果のある魔法のテクニックというような印象を受けることもあるのではないかと思う。このような捕らえ方をすると、臨床では全ての患者に使用するか、あるいは使用方法がわからないということになる。頭蓋治療を適切な状況で適切に使用するためには、調整方法をマスターするとともに、その調整方法により、どのような構造に変化が起こり、どのような機能に影響するのかを熟知する必要がある。
例えば、頭蓋調整は、頭蓋骨の各骨に調整を行うために力を加えるわけであるが、それがどのような組織に影響を及ぼしているのか理解する必要がある。頭蓋骨そのものは、一部の骨は非常に薄く、模型とは異なり生体の骨は非常に柔軟性があるとされているが、その形状にわずかな変化が起こる可能性もある。この頭蓋骨の正常な形状が異常な形状に変化する原因は、硬膜や縫合などの結合組織である。これらの組織の特性の変化が頭蓋障害を起こすことになるわけである。実際には、わずかな骨の形状の変化による障害よりも、これら結合組織の変化により障害が起こる可能背の方が高いと思われる。ゆえに、頭蓋調整では頭蓋骨に接触して力を加える方法がとられるが、実際に調整により変化するものは、硬膜や縫合などの結合組織でしかない。
このことは、以前紹介したフィクセーションモデルと共通する部分である。これを理解することで、同じ頭蓋骨の調整法を使用する場合でもその特性を変化させるためには、瞬間的な圧力や過剰な圧力による調整は効果が少ないことが理解できると思う。頭蓋調整などでよく言われる、“開放リリース”とは、この結合組織の特性の変化、そして、それに伴う頭蓋部の構造の各種機能の変化によるものである。
それでは、硬膜や縫合など結合組織の特性に異常をもたらすもの、その原因はどのようなものになると考えられるであろうか。それは頭蓋骨に加わる力、圧力によるものである。これは、外傷のように急激な大きな圧力も含まれるが、特に頭部への外傷の既往歴がない場合では、特に持続的な圧力が加わることで起こると考えられる。これらは頭部を支えている頚椎、あるいは頭部に付着する筋である。特に横臥位など除く座位や立位などによる姿勢のゆがみなどが関与するということになる。
頭蓋障害に対する治療は、頭部だけではなく、頭部を支え、頭部に力を加える全身の歪みに対する治療が必要になる。しかし、頭蓋骨に異常な力を加える歪みを治療すれば頭蓋骨そのものに対する治療は必要ないというわけにはいかない。
結合組織の特性が変化してしまった場合、それを改善するように全身の歪みが頭部に異常な力が加わらないようにしたとしても、改善が難しいケースも少なくない。このため、頭蓋骨そのものに対する治療が必要になる。要するに頭蓋治療は、頭蓋骨、結合組織に対する治療とさらに頭蓋障害を起こすような筋骨格系の異常の治療も同時に行わなければならないということである。