腹臥位での静的な骨盤触診はいらない?カイロプラクティックジャーナル

  腹臥位での静的な骨盤触診はいらない?

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Beyond Manipulation <第8回>腹臥位での静的な骨盤触診はいらない?2013.06.27

カイロジャーナル77号 (2013.6.27発行)より

 臨床では腹臥位で骨盤を静的あるいは動的に触診する機会は少なくない。カイロプラクティックを勉強し始めた当時、SOTで、骨盤のカテゴリーⅠとⅢでは腹臥位、カテゴリーⅡでは仰臥位で触診を行うのは何で??と疑問に思っていた。
 理由はシンプルである。仰臥位では、仙骨がテーブルに接触して基準となり、仙骨に対する寛骨の歪みを検出できる。逆に、腹臥位では、両側の寛骨を基準とする、仙骨や腰椎の歪みが検出できるのである。テーブルに腹臥位になっている状態では、比較的やせている患者は恥骨結合がテーブルに接触する。かなりやせている患者では、ASIS(前上腸骨棘)がテーブルに接触する(下部腰椎の伸展と股関節伸展の可動性が必要であるが)。この場合、フィクセーションがない限り、左右の寛骨はテーブルの上で変位を保持することなく、寛骨のゆがみは最小限になり、寛骨に対する仙骨の歪みが明らかになる。
 患者が肥満傾向にあり腹部突出のため、ASISはもとより恥骨結合でさえテーブルに接触しないケースがある。この場合、腰椎の回旋、腹部、腹腔内組織の差、股関節屈筋、特に大腰筋、腸骨筋、大腿筋膜張筋などの硬縮による股関節伸展制限などにより骨盤の変位が起こる。これでは寛骨に対する仙骨の変位を検査することは不可能になる。
 腰椎の回旋フィクセーション、あるいは変位は腹臥位で骨盤全体にねじれ(棘突起回旋側の骨盤が前方回旋)を加えることになる。これはSOTでいうカテゴリーⅢということになる。股関節屈筋硬縮により寛骨が前方回旋を起こしている場合では、立位でも同じような変位が起こる可能性は高いが、腹部の圧力の左右差の場合、立位での変位とは異なる場合もある。
 腹臥位での触診では、ASISとテーブルの間に隙間が触診できるか調べるべきである。ASISが完全にベッドに付いている場合では、寛骨のゆがみは最小限に補正されている状態である。このような状態では、かなりの股関節屈筋硬縮の存在も疑われる。ASISとテーブルの間にスペースがある場合、腰椎や腹部などの影響を考慮すべきである。
 しかし、腰椎、胸椎、頚椎への力学的な影響(例えば、骨盤前方回旋変位による腰椎回旋変位など)を考慮して、骨盤の変位に対してアプローチする場合、腹臥位での骨盤の触診はフィクセーションの有無をチェックするためのみで有効である。仙腸関節の可動性が正常、または亢進しているような場合では、腹臥位での変位は、頚椎、胸椎、腰椎に影響を与える立位での変位と必ずしも一致するわけではない。
 例えば、骨盤の変位による、立位での腰椎の回旋変位を改善するためには、立位で骨盤の状態を触診する必要がある。骨盤を脊柱の基礎として重要視する場合、腹臥位、さらに座位での触診はあまり有益ではなく、立位での触診は必要不可欠である。また、起立時や立位で症状が出現、悪化する場合でも同様である。

骨盤の状態。上が仰臥位で下が腹臥位。

骨盤の状態。上が仰臥位で下が腹臥位。


 腹臥位での骨盤の変位の触診は、参考程度として捕らえるべきであり、腹臥位では主に、モーション・パルペーションを重要視するべきである。腹臥位での静的な触診による骨盤の変位の結果を基に治療を加えるべきではない。モーション・パルペーションにより可動性が検出される場合、ASIS、腸骨稜、PSISなど立位での触診が必要である。
 しかし、立位で変位がある場合、もはや骨盤は脊柱の基礎ではなくなる。股関節を始めとする下肢の異常は、立位での骨盤の状態を変化させる。これにより、股関節を始め、下肢の治療が腰部のみならず、脊柱に対して重要であるのが理解できると思う。
 骨盤の変位の治療により、上位の脊柱の状態を改善させるためには、立位での骨盤の状態を触診する必要がある。手技療法において骨盤の状態が重要になるのは、仰臥位、腹臥位、座位でもなく、立位の状態である。

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