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スポーツ・カイロプラクティック 膝蓋大腿関節のバイオメカニクス2016.03.02

膝蓋大腿関節のバイオメカニクス
カイロジャーナル84号 (2015.10.21発行)より

榊原直樹DC

膝蓋骨の運動

膝蓋大腿関節は大腿脛骨関節と運動学的に連動します。したがって、膝蓋大腿関節が正常に機能していることが、大腿脛骨関節に非常に重要になります。

膝蓋大腿関節の運動障害では、膝関節の屈曲/伸展運動に伴う膝蓋骨の動きに異常が発生しています。膝関節を屈曲させた時、膝蓋骨は遠位へ滑り運動を起こし、伸展では逆に近位に滑り運動を起こします。しかし、膝関節の屈曲/伸展に伴う膝蓋骨の動きはもう少し複雑です。臨床ではこの複雑な動きを検査で検出できることが、症状の正確な見極めにつながります。

膝蓋骨に運動障害がある場合、関節面への負荷(圧迫)にも変化が生じます。その結果、局所的に強い負荷が加わる領域が現れ、関節軟骨の摩耗が生じ変形性関節症や離断性骨軟骨炎へと進行するリスクが高まります。

膝関節が完全伸展位の時、膝蓋骨の関節面はどこにも接触していません(※8)。したがって、このポジションにおいて、膝蓋骨の可動性は最も大きくなっています。この時、膝蓋骨に可動域制限が認められる場合、その制限要素は膝蓋支帯である可能性があります(大腿四頭筋は弛緩していると仮定)(※5)。逆に屈曲位では膝蓋骨は大腿骨滑車部とかみ合っているため、可動域は著しく制限されます。

膝関節屈曲に伴う膝蓋骨の運動

膝関節の屈曲/伸展により、膝蓋骨には縦方向と横方向への滑り運動が生じます。縦方向には5~7cmの可動性があります(※6)。

膝関節伸展位において、膝蓋骨はやや外方に位置しています。屈曲の初動時、わずかですが内方への変位が起こります(※4、7)。その後はほぼ直線的な運動(下方変位)が起こります(表1)(L Blankevoort, SD Kwak, CS Ahmad, TS Garer, et al, unpublished data)。また膝蓋骨には膝関節の屈曲に伴い、わずかですが外旋と屈曲も生じます(※7)。

図グラフ 膝関節屈曲角度に伴う膝蓋骨の変位((横軸の単位は角度、縦軸の単位はmm)
大腿骨滑車部を0として数値が大きいほど内方に変位していることになる

膝関節屈曲に伴う膝蓋骨関節面の接触面積の変化

膝関節屈曲に伴い、接触部位は近位へと変位し、接触面積は徐々に拡大し膝関節90度屈曲位において最大となります(図1)(※1、2)。さらに屈曲させると、膝蓋骨は大腿骨顆とのみ接触部位を持つようになります。この時、膝蓋骨関節面の内側面と大腿骨内側顆の外側面が互いに接触しています(※2)。この時の膝蓋骨側の関節面はオッド面(odd facet)と呼ばれ、膝関節が135度屈曲位において現れます(図2)。

図1 膝関節屈曲角度に伴う接触部位と接触面積の変化
屈曲角度が大きくなるほど、接触部位は近位に変位し、接触面積は大きくなっていく

図2 オッド面(Odd facet)
オッド面は膝蓋骨関節面の内側にあり、膝関節の屈曲角度が大きくなると大腿骨内側顆と接するようになる

膝関節屈曲に伴う膝蓋骨関節面の接触部位の変化

膝関節が完全伸展位の時、膝蓋骨遠位端が大腿骨の関節面とわずかに接触しています。膝蓋骨は膝関節10度屈曲位において遠位方向へ動き始めます(膝蓋高位症(Patella alta)の場合、膝蓋骨が大腿骨滑車部にはまり込むまでにより大きな屈曲角度が必要となります)。膝関節10度屈曲位においては、膝蓋骨の外側関節面と大腿骨外側顆のみが接触しており、膝蓋骨の内側関節面と大腿骨内側顆は接触していません。しかし、屈曲角度が20度の時には膝蓋骨関節面の内側と外側がともに接触し、これは90度まで続きます(図3)(※1、3)。

図3

また、膝関節の屈曲に伴い膝蓋骨関節面の接触部位は近位に変位していきます(図4)。図を見てもわかるように、膝関節20度屈曲位の時は膝蓋骨関節面の遠位部が大腿骨滑車部と接触していますが(図4)、90度になると接触部位は遠位に変位しています(図5)。

図4 膝関節20度屈曲位における膝蓋骨関節面の接触部位(矢状断面)

図5 膝関節90度屈曲位における膝蓋骨関節面の接触部位(矢状断面)

135度屈曲位になると膝蓋骨関節面の接触領域が顕著に変化します。膝蓋骨関節面の中心領域の接触は完全になくなり、膝蓋骨関節面のオッド面と外側面のみが大腿骨顆と接触するようになります(図6)。

図6 膝関節135度屈曲位における膝蓋骨関節面の接触部位(横断面)

膝関節の屈曲角度が90度を超えると次第に関節面の接触面積が減少していきます。しかし、90度を超えたところで大腿四頭筋腱が大腿骨滑車部と接触し始めます(図7)。したがって、大腿四頭筋腱にも負荷が分散するため、関節面への負荷はそれほど増大しません。

図7 膝関節135度屈曲位における膝蓋骨関節面の接触部位(矢状断面)

膝蓋骨の変位

 膝蓋骨の変位には以下の4種類があります。
1. 横滑り(内方/外方)
2. 回旋(内旋/外旋)
3. 横傾斜(内反/外反)
4. 縦傾斜(屈曲/伸展)

横滑りは大腿骨滑車部を基点として冠状断面における内方もしくは外方の変位のことです(図8)。回旋は膝蓋骨を前方から後方に垂直に貫く運動軸を中心とする円運動です。膝蓋骨尖が外方へ向く運動は外旋、内方へ向く運動は内旋と言います(図9)。一方、横傾斜の運動軸は膝蓋骨の正中断面を貫いており、縦傾斜の運動軸は横断面をそれぞれ貫いています。それぞれ、屈曲/伸展、外反/内反の運動が起こります(図10、11)。

図8 膝蓋骨の内反/外反

 

図9 膝蓋骨の内旋/外旋

図10 膝蓋骨の内反/外反
図11 膝蓋骨の屈曲/伸展

参考文献
1. Grelsamer RP: The biomechanics of the patellofemoral joint. J Orthop and Sports Phys Ther; 28: 286 – 298, 1998
2. Hehne JH: Biomechnics of the patellofemoral joint and its clinical relevance. Clin Orthop; 258: 73 – 85, 1990
3. Komistek WR, Pope MH, Johnson RJ, Wilder DG: An in vivo determination of patellofemoral contact positions. Clin Biomech; 15: 29 – 36, 2000
4. Li G, Ruby TW, Sakane M, et al.: The importance of quadriceps and hamstring muscle loading on knee kinematics and in-situ forces in the ACL. J Biomech; 32: 395 – 400, 1999
5. MacRae PG, Lancourse M, Moldavon R: Physical performance measures that predict faller status in communitiy-dwelling older adults. J Orthop Sports Phys Ther; 16: 123 – 128, 1992
6. Mann RA, Hagy JL: The popliteus muscle.. J Bone Joint Surg; 59: 924 – 927,1977
7. Powers CM, Perry J, Hsu A, Hishop HJ: Are patellofemoral pain and quadriceps femoris muscle torque associated with locomotor function? Phys Ther; 77: 1063 – 1075, 1997
8. Wallace DA, Salem GJ, Salinas R, Powers CM: Patellofemoral joint kinetics while sq

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