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スポーツ・カイロプラクティック 胸鎖関節のバイオメカニクス2016.06.03

胸鎖関節のバイオメカニクス
カイロジャーナル85号 (2016.2.18発行)より

胸鎖関節は関節包と靭帯によって補強されています(図1)。また、関節円板によって可動性と安定性が保たれています。解剖学的には胸鎖関節は上肢との結合部位であるため、この関節の機能は上肢の可動性に大きく影響を及ぼします。胸鎖関節の関節面はいびつな形状をしていますが、退行変性は稀です。これは、関節半月や関節周辺の靭帯(肋鎖靭帯、胸鎖靭帯、鎖骨間靭帯)による緩衝作用が効率的に働いているためだと思われます。また、これらの安定化構造のお陰で胸鎖関節における脱臼は極めてまれです。

図1 胸鎖関節周辺の補強構造

胸鎖関節は滑膜性関節であり、3度の自由度を持っています。それぞれ、冠状面、横断面、矢状面における運動です。それぞれ、挙上/下制、前突/後退、前方回旋/後方回旋です(図2)。この関節には、滑膜、関節包、関節円板、靭帯などがあります。また、胸鎖関節は肩関節複合体と体幹(胸骨)との連結部位となっています。したがって、胸鎖関節で上肢と体幹を切り離すことができます。

図2 胸鎖関節の運動 胸鎖関節は3度の自由度を持つ

胸鎖関節は以下の三つの部位に分けることができます。

  1. 外側コンパートメント
  2. 内側コンパートメント
  3. 肋鎖関節

外側コンパートメントは関節円板と鎖骨近位端によって構成されており、鎖骨の挙上・下制が生じます。また、内側コンパートメントは関節円板と胸骨柄によって構成され、鎖骨の前突・後退が生じます。最後に肋鎖関節は第一肋骨上縁と関節円板、鎖骨近位端の前下縁によって構成されており、回旋(前方・後方)の運動が生じます(表1)。

コンパートメント 構成要素 運動
外側コンパートメント 関節円板、鎖骨近位端 挙上・下制
内側コンパートメント 関節円板、胸骨柄 前突・後退
肋鎖関節 第一肋骨上縁、関節円板、鎖骨近位端の前下縁 回旋(前方・後方)
表1 各コンパートの構成要素と運動

挙上と下制

鎖骨(遠位端)の挙上と下制の運動軸は鎖骨近位端にあります。鎖骨近位端が下方滑り+上方回転することで、鎖骨遠位端は挙上します。逆に鎖骨近位端が上方滑り+下方回転することで、鎖骨近位端は下制します(表2、図3)。この鎖骨近位端における滑り運動と回転運動の組み合わせは、胸鎖関節の関節面の形状に起因しています(鎖骨近位端が凸状、胸骨側が凹状)。鎖骨挙上の可動域は45~48度、下制は10~15度あります(※2、3、6、7)。

鎖骨遠位端 鎖骨近位端
挙上 下方滑り+上方回転
下制 上方滑り+下方回転
表2 挙上と下制
図3-1挙上
図3-2下制

前突と後退

鎖骨の前突と後退は、胸鎖関節にある上下に伸びる運動軸を中心に起こります。前突では、鎖骨遠位端は前方へ変位し、後退では後方へ変位します(表3、図4)。可動域はそれぞれの方向に15~30度あります(※2、7、9)。

前突において鎖骨近位端には、前方滑り+前方回転が生じます。一方、後退では後方滑り+後方回転が生じます。これは、鎖骨近位端の関節面の形状が凹面(胸骨側の関節面は凸面)であることに起因しています。

鎖骨遠位端 鎖骨近位端
前突 前方滑り+前方回転
後退 後方滑り+後方回転
表3 前突と後退
図4-1 前突
図4-2 後退

前方回旋と後方回旋

鎖骨の前方回旋と後方回旋は、上肢の挙上/下制と連動しています。上肢の挙上に伴い、鎖骨には後方回旋が生じます(後方回旋位において、鎖骨下面は前方を向くようになります)(表4、図5)。後方回旋の可動域は40~50度あります(※4、10)。上肢の下制では、逆に前方回旋が生じます。胸鎖関節と肩鎖関節を貫く線(鎖骨長軸)が回旋の運動軸となります。また、完全後方回旋位において、胸鎖関節はしまりの位置となり、この関節が最も安定しているポジションです。

上肢 鎖骨
挙上 後方回旋
下制 前方回旋
表4 前方回旋と後方回旋
図5 前方回旋と後方回旋

胸鎖関節と肩鎖関節の連動

上肢の挙上(屈曲、外転)に伴い、肩甲骨の上方回旋と鎖骨の挙上が起こります。胸鎖関節の挙上は、上肢挙上の最初の3分の2において終了します(※1、5)。肩甲骨の上方回旋の可動域は約60度、胸鎖関節の挙上の可動域は約40度です。したがって、残りの20度は肩鎖関節で生じていることになります。

肩甲骨の上方回旋により、円錐靱帯(烏口鎖骨靱帯の一つ)は伸長されます。それに伴い、鎖骨は烏口突起に向かって牽引され、肩鎖関節において後方回旋が起こります(この時、胸鎖関節の挙上は全く生じていません)。したがって、円錐靱帯は鎖骨の後方回旋の可動性に大きく関わっていることになります(ほとんどの靭帯は関節の制限(安定性)がその機能ですが、円錐靱帯は関節の可動性に寄与しているという点で特殊な靭帯と言えます)(図6)。

図6 肩関節周辺の靭帯

円錐靱帯は鎖骨遠位端と烏口突起に付着部位を持つため、上肢挙上に伴い円錐靱帯が伸長され、鎖骨の後方回旋を引き起こす。

上肢(肩甲上腕関節)の挙上により、肩甲胸郭関節の上方回旋と胸鎖関節の挙上が初動時(最初の40度)で起こります。その後、円錐靱帯が伸長されることで肩鎖関節に後方回旋が生じ、肩甲上腕関節の挙上と肩甲胸郭関節の上方回旋がさらに起こります(表5、図7)。

肩甲上腕関節 肩甲胸郭関節 胸鎖関節 肩鎖関節
挙上(屈曲、外転) 上方回旋 挙上 後方回旋
表5 肩関節複合体の連動
図7 鎖骨と肩甲骨の連動

胸鎖関節または肩鎖関節の可動域制限

肩甲骨の上方回旋では、胸鎖関節の挙上と肩鎖関節の後方回旋が生じています。胸鎖関節に可動域制限がある場合、以下の二点が起こり得ます。

  1. 肩甲骨の上方回旋制限
  2. 上肢挙上の初動可動域(~40度)における硬さ、痛み、可動域制限

また、肩鎖関節に可動域制限がある場合は以下の二点になります。

  1. 肩甲骨の上方回旋制限
  2. 上肢挙上の終動可動域における硬さ、痛み、可動域制限

しかし、代償作用が働くため、胸鎖関節の可動域制限によって肩鎖関節の可動域亢進、肩鎖関節の可動域制限によって胸鎖関節の可動域亢進が生じる可能性があります(※8)。 したがって、上肢挙上の可動域は正常に維持されている場合もあります。ただし、このようなケースにおいては、症状の慢性化に伴い、関節円板や関節半月などの変性が進行しやすくなると考えられます。

参考文献

  1. Apreleva M, Hasselman CT, Debski RE, et al: A dynamic analysis of glenohumeral motion after stimulated capusulolabral injury, a cadaver model.. J Bone Joint Surg 80A: 474-480,1998
  2. Conway AM: Movements at the sternoclavicular and acromioclavicular joints.. Phys Ther 41: 421 – 432,1961
  3. Inman B, Saunders J, Abbott L: Observations of function of the shoulder joint.. J Bone Joint Surg Br 26: 1,1994
  4. Inman VT, Saunders M, Abbott LC: Observations on the function of the shoulder joint.. J Bone Joint Surg 26A: 1 – 32,1994
  5. Magee DA: Orthopedic Physical Assessment.. Philadelphia: WB Saunders,1998
  6. McClure P: Direct 3-dimensional measurement of scapular kinematics during dynamic movements in vivo.. J Shoulder Elbow Surg 10: 269 – 277,2001
  7. Moseley HF: The clavicle: Its anatomy and function.. Clin Orthop 58: 17 – 27,1968
  8. Pronk GM, van der Helm FCT, Rozendaal LA: Interaction between the joints in the shoulder mechanism: the function of the costoclavicular, conoid and trapezoid ligaments.. Proc Inst Mech Eng 207: 219-229,1993
  9. Steindler A: Kinesiology of the Human Body. Springfield, Ill, Charles C Thomas,1955
  10. Van Der Helm FCT, Pronk GM: Three – dimensional recording and descriptions of motions of the shoulder mechanism.. J Biomech Eng 117: 27 – 40,1995
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