《第47回》脊柱管マイナーソフト構造における力学の視点カイロプラクティックジャーナル

  《第47回》脊柱管マイナーソフト構造における力学の視点

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痛み学NOTE 《第47回》脊柱管マイナーソフト構造における力学の視点2017.01.03

緊張高まると痛みの発症条件に!
カイロジャーナル87号 (2016.10.15発行)より

脊柱管狭窄症の診断を受けた女性の患者さんがみえた。彼女は60歳を目前にして次第に下肢の痛みとシビレ症状を発症し、病院の診察を受けている。MRI画像所見で脊髄断面の面積がかなり狭くなっていて、手術の対象とされた。就業の傍ら親の介護もしているので、今、手術したらそれもできなくなる。彼女は手術を回避して、カイロプラクティック治療に活路を求めることになった。やがて症状も改善した頃に、再度MRIを撮った。結果、画像上でも狭窄していた脊髄に拡がりが見られるようになっていた。私も改善前後の画像を見せてもらったが、確かに脊髄の圧迫の程度が少し拡がって脊髄の流れに一定の空間が、より確保されていたのである。それでも脊柱管そのものの変化に違いは見られない。では、なぜ手技治療で脊髄圧迫の病態が変化したのだろう。脊柱管狭窄症が改善した症例は、カイロの臨床でも多々経験するところである。同じことは、椎間板ヘルニアやその根障害とされる病態にも言える。そこには「整形外科学」と「徒手療法の脊柱学」における決定的な違いが、きっとあるのだろう。もっと具体的に言えば、脊柱の「骨構造の病理」と「マイナーソフト構造の機能力学」における視点の違いだろう。

近年、DrホルダーDCがサブラクセーションの概念に新たな解釈を持ち込んだ。サブラクセーションを3種類に分け、さらに2つのカテゴリーに分けている。そのカテゴリーこそ「コードプレッシャー」であり、「コードテンション」だとしている。硬膜には、脊柱構造に直接的な付着を持つ部位がある。その部位に力学的緊張が加わると、硬膜管に捻じれや歪みがつくられやすい。そのことで脊髄に圧力や緊張がもたらされる、というものである。椎骨の変位という考え方から、視点が硬膜管における力学に移行した。実は、この視点は今に始まったことではない。それは硬膜管の付着部に限らず、硬膜に付随する靭帯組織も硬膜管の脊柱管内における自由度を制限している、という徒手医学における生体力学の考えでもある。

例えば、歯状靭帯は軟膜と硬膜の支持靭帯である。一側に20カ所の付着を持ち、硬膜管の中での脊髄の自由度を制限している。さらに、脊柱および硬膜管の自由度をコントロールしている重要な支持靭帯は「硬膜結合複合(Dupuis,1988)」あるいは「ホフマン靭帯(Rauschningら,1987)」と呼ばれている。ホフマン靭帯はC7~L5までのレベルで存在するという報告(Spine,1976)があり、ほとんどの靱帯が単一の椎骨セグメントに限定さている。なかには数個のセグメントを横断する靭帯もあるらしく、このことも献体解剖所見から観察報告されている(J Spinal Disord. 1990)。ホフマン靭帯の初出は『Managing Low Back Pain』(Kirkaldy-Willis他著)のようだ。以後、徒手療法関連の成書にも引用されるようになった。

それによると、ひとつは硬膜前面中央部から腰椎と後縦靭帯に付着する「正中ホフマン靭帯(midline dural ligament)」で、もうひとつは硬膜の前方側面から後縦靭帯(椎間板付着部)に付着する「外側硬膜靭帯(lateral dural ligament)」である。さらに、「外側根靭帯(lateral root ligament)」は脊髄神経根と下椎弓根の間に付着し、脊柱の動きと硬膜袖の自由度を制限している。したがって、この硬膜袖におけるテンションは外側根靭帯の緊張度とも関わっていて、硬膜袖に弛みや緊張をもたらしているのである。パドヴァ大学(伊)の臨床整形外科領域からの報告(J Spinal Disord., 1990)では、硬膜後方における髄膜脊椎靭帯(meningovertebral ligament)も脊柱管の病態に関与していることを指摘している。著者らは、こうした脊柱管のマイナーソフト構造が長年にわたり無視されてきたことを問題視しているのだ。

硬膜管の伸張性は、ほとんどない。しかし一定の弛みがあり、そのことで脊柱の自由度も担保されている。ところが脊柱の後弯などによっても、硬膜管後方に伸張性の緊張が起こる。当然、髄膜脊髄靭帯も頭方に牽引されることで緊張する。すると硬膜前方では、ホフマン靭帯によって上方への牽引力が増す。それは椎骨の下位にいくほどに増強され、後縦靭帯や硬膜管の緊張が高まって自由度も減少することになる。硬膜管にリンクされたマイナーソフト構造の緊張は、痛みの発症条件のひとつになっているのかもしれない。「日常損傷病学」というサイトを開設している整形外科医は、さらにMRI画像を提示して硬膜管に対するメカニカルな解説を試みている。その記事は必読の価値がある。


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