五輪選手にベストのオステケア提供

英国OSCA ミルトン会長インタビュー

カイロジャーナル88号 (2017.2.19発行)より

日本オステオパシースポーツケア協会(OSCAJ)のセミナー講師として、イギリスのオステオパシースポーツケア協会(OSCA)会長のシメオン・ミルトン氏が昨年12月に来日した(2面に関連記事)。ミルトン氏にオリンピックでのこれまでのオステオパシーの実績や役割、東京オリンピックに向けての展望を伺った。

シメオン・ミルトン氏

ロンドン五輪の経験

――2012年のロンドン五輪パラリンピックのときに、選手村ポリ・クリニックのオステオパシー部門長を務められたそうですね。
(シメオン・ミルトン)これが五輪開催国のメディカル・サービスにオステオパシーが加わった最初の大会ですから、とても誇りに思ったと同時に責任も感じました。オステオパシーが最高レベルのスポーツ選手に対して何ができるのかを見せる貴重な機会になりました。
――ロンドン五輪では、カイロプラクティックも同じポリ・クリニックで働く機会がありました。カイロ、オステ、理学療法、スポーツマッサージの頭文字を取ったCOPSが協力してケアをした最初だと聞きました。イギリスでは今、カイロとオステはどのような関係ですか。
一言で言うと、五輪以後関係はずっとよくなりました。長い歴史の中で摩擦もあったのですが、今は定例会議も開いていて交流があります。ロンドン五輪のとき、カイロ部門長として活躍したトム・グリーンウェイに対しては、私がカイロ評議会役員の推薦状を書いたんですよ。普通は業界内とか大学教授とかに限られますよね。たぶん初めてのことです。

違いより共通点

――オステとカイロの違いをどのように見ていますか。
イギリスではもちろん独立した職業として、それぞれ独自の評議会の自治と規制があります。哲学的な違いは明確にありますし、私たちは違いを強調しがちですが、業界外の人は類似点、共通点を見出していると思います。これはケアを受ける患者さんというよりも、医師、政府、保険会社が類似したものとして見ており、その結果が政策に反映されている現状があるということです。
――ケアの違いは、どうでしょう。
トップレベルでのケアということでは、とても似ていると言えます。イギリスやアメリカの傾向として、カイロは筋力テストを使って問題を特定することが多いですが、オステではそうしたテストはあまり使われません。通常パルぺーションによって問題を特定します。私自身もそうです。またスポーツ・カイロでは、グラストン・テクニックがよく使われますが、オステでは手だけでの治療が主流です。そういったテクニックの違いがありますし、哲学の違いもあります。業界同士だとユニークさや違いに着目するのですが、外部の人はより類似点を見出しています。

イギリスには両方の職業が存在しており、日本でも同じでしょう。目標は共通していて、アスリートにベストなケアを提供することです。オリンピックという短期的目標にしても、両方がそこにいてベストなケアを提供できることが大事でしょう。

――今回、2回目の訪日だそうですが、日本の印象はいかがですか。
日本は大好きです。食べ物もおいしいし。それから小さなことですけれども、例えばきちんと整列して並ぶとか、イギリスとの共通点があるところが好きなんですよ。

教えることに関しては戸惑ったこともありました。私の理解では、教室での講師の質問にはすぐ答えが返って来るものなんですけれども(笑)。発言がないのに慣れてないんです。

しかし熱意、やる気は感じます。診断、治療、治療プランなどは、いろいろな回答が可能なので、すばらしい意見も出ました。

東京五輪に向けて

――OSCAJのセミナーは、東京五輪のCOPSチームとして参加できるための準備と聞いていますが、通常の診断治療技術に加えて、オリンピックでは何が必要とされますか。
まず大切なのは、チームの一員として働けることです。そのために、自分の治療院だけでなく、他の治療家と働く経験が必要です。だれかに「電気治療をやっておいて」と言われたらすぐに動けるとか、オステだけ、カイロだけに通用する用語を使わずに共通語で会話できることも必要です。

もちろんスポーツチームで働く経験も重要で、最初は小さな地元チームなどで経験を積ませてもらうことです。強豪チームにはなかなか入れませんが、ユース、女性、障害者のスポーツは、人材も資金も潤沢でないところが多く、比較的入って行き易いと言えます。

また、スポーツイベントに特有なこととして、問題を抱えている選手は、毎日密度の濃い治療をして早く結果を出さなければなりません。普段の診療と治療密度が違うという点は学ばなくてはなりません。

――COPS方式は、ロンドンに続いて、リオでも採用されました。東京もこの流れで行くと考えられますか。
それを決めるのはもちろん日本のオリンピック組織委員会(TOCOG)です。国際オリンピック委員会(IOC)がCOPS方式をJOCに推薦をしたということは確かな情報として聞いています。

――ところでカイロには、スポーツ・カイロのディロマがあり、国際標準の学歴として認知されています。オステには何か基準がありますか。

その面ではカイロは確立したコースがありますね。オステには国際標準はありません。スポーツ・ケアを学ぶ方法は、各国それぞれです。

イギリスでは、必要な学位を修了して免許登録をした後、理学修士(MSC)過程で、スポーツ・ケアを学ぶという方法があります。MSCは、オステ大学である必要はなく、総合大学の理学療法科に行くこともでき、むしろオステ以外の分野でMSCを取っている方が、高学歴というか誰にでも認められ易いという利点があります。MSCは論文提出のための時間と労力がたいへんですが、途中でやめても、卒後教育の実績が認められたり、ディプロマは取得できるなどの柔軟性もあります。

リオ五輪のポリ・クリニックのスタッフたちと(左がミルトン氏)

スポーツ・ケアの現状

――イギリスでは、オステオパスのスポーツ・ケアはボランティアですか?
そうですね。タダでやるという人も結構いるので、お金はなかなか支払われません。それでもだんだん変化はして来ています。

私の場合、有料の帯同で、1日250ドルぐらいですから、自分の治療院で働いた場合とはやはり比較になりません。

五輪については、基本ボランティアというのは当分変わらないと思います。リオの場合、英国チームに帯同したオステオパスには支払いがあったそうです。

私が若い人に勧めるのは、最初に無料にしてしまうと、有料にする交渉が難しくなるので、少額でいいので有料で始めることです。現在イギリスでは、医療者がいない競技会で怪我をした場合は、保険が支払われない場合もあるのだから、有料でよいと思うんですよ。

また、若ければ、長期でシーズン・ツアーに帯同するなどの経験もよいと思います。ゴルフ・トーナメント・ツアーでヨーロッパ中を回るというオファーもありました。日当は少ないですが、無料で一流リゾートに泊まれるなど楽しい経験ができます。私が始めたころと比べると、活動の機会はずいぶん増えています。

――多少支払いがあってもボランティア精神がなければできないことですが、シメオン先生が20年以上も続けて来られた理由は何でしょう。
私は、学生時代ラグビーをやっていて、自分がオステ大学を卒業したときには、ラグビー・コーチになっている友人もいたので、頼まれて自然にやり始め、段々に活動の幅を広げていったと思います。

また継続できるようにバランスを取ってきたこともあります。週に3日は自分の治療院で仕事をすること、協会の仕事や帯同は週2日までとすることと決めています。チームとシーズン契約はしません。子供もいるし、家のローンもあるしで、自分の治療院経営の安定をまず考えないといけないですからね。

ただ、続けて来られた一番のモチベーションは、スポーツ・ケアの現場にいること自体にありました。メダルを取るような選手ではなくても、オステ・ケアによってその選手が最高レベルのパフォーマンスができたのを見ると、何にも代え難い感動と満足感があるんですよ。

――今後もよいバランスで、スポーツ・ケア、そして教育活動にご活躍ください。東京オリンピック、パラリンピックへ向けてのアドバイスもぜひよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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