発展のカギはビジョンある伝統 レンゾー・モリナーリJTOC名誉学長
レンゾー・モリナーリJTOC名誉学長 来日インタビュー
カイロジャーナル89号 (2017.6.19発行)より
日本トラディショナルオステオパシーカレッジ(JTOC)二期生入学式と担当授業のため、ロンドンからレンゾー・モリナーリDO来日した。気さくな人柄で、学生からはレンゾー先生の名で親しまれている。オステオパシー教育界で様々な役職を歴任してきたモリナーリDOに、お話を伺った。
Renzo Molinari, DO プロフィール
日本トラディショナルオステオパシーカレッジ(JTOC)の名誉学長、顧問。JTOC創設、講師の人選に多大な協力をしてきた。
フランス・オステオパシー・カレッジの設立に協力し、最初の校長となる。その後、イギリスのメードストンにあるヨーロピアン・スクール・オブ・オステオパシー(ESO)の大学カリキュラム構築に努める。ヨーロッパ・オステオパシー・アカデミー・ネットワークを創立し主導した後、世界オステオパシー保健機構創設に尽力し、初代会長となる。
米国アカデミー・オブ・オステオパシーのヨーロッパ担当コーディネーター、イギリスのオステオパシー教育機構評議会の議長、ロシア・アカデミー・オブ・オステオパシーの学長、ウェールズ大学(イギリス)の専門家アドバイザーなどを歴任した。
現在は、ESOの准教授。数多くの国際セミナー講師として活躍する。
現在、ロンドンで2つのクリニックを運営する。またモリナーリ・ヘルス・インスティテュートを拠点として女性の健康に焦点を当てた教育活動も行う。
- ――本紙前号(88号)ではイギリスのオステオパスで、スポーツ選手のケアで実績をつくり、ロンドン、リオのオリンピックにオステオパシーを導入するために大きな役割を果たした英国オステオパシースポーツケア協会会長のシメオン・ミルトン氏を紹介しました。レンゾー・モリナーリ先生もイギリスで長く開業されていますが、ミルトン氏はご存知ですか?
- はい。一緒に講義をしたこともありますよ。リオ・オリンピックに治療家として参加する件は、私も打診されましたが、時間がありませんでした。スポーツ選手のケアでは、かつてはイギリスのサッカー・プレミアリーグで選手のケアをしていたことがあります。今はクリニックの患者としてスポーツ選手も診ています。
- ――ロンドンの中心部で開業されているそうですね。
- 二つのクリニックを持っています。一つは女性の健康ケアに力を入れるクリニックです。不妊の問題と、妊娠、出産、出産後のケア、婦人科疾患を扱っています。産婦人科医、オステオパス、助産婦、エコー技師、栄養士、鍼師のグループ医療を行っており、患者は必要に応じたケアが受けられるようになっています。もう一つは、一般的なオステオパシー治療院で、小児、スポーツ選手、整形外科、その他の疾患を抱えた人など、どなたでも来てもらえるクリニックです。
- ――フランス育ちですよね?
- はい。フランスで17年間臨床をしていました。1993年にイギリスでオステオパシーが法制化しました。既存の学校を大学化するためにカリキュラムをつくってほしいという依頼があり、ヨーロピアン・スクール・オブ・オステオパシー(ESO)の最初の学部長になりました。それから24年、ずっとロンドンで教育と臨床に携わっています。
- ――オステオパシーの道に進んだきっかけは?
- 子供のころに『奇跡の手』という手技を使う医者の本を読んで以来、手を使って人を治したいと思っていました。しかしそんな職業はないと周囲から言われていました。あるとき私のことを聞きつけたオステオパス、アンドレ・ラシオが電話をくれ、オステオパシーを知り、学ぶことができました。彼とは15年後、一緒に協力してフランスにオステオパシー学校をつくりました。
- ――多くの人は治療を受けてからオステオパスを目指しますが、最初から探していたのですね。
- いつも自分からビジョンに向かっていく感じですね。イギリスに渡ったときもそうでした。世界レベルの教育やアカデミーネットワークを構築したいと思って動きました。
- ――フランスにオステオパシー大学はあるのですか?
- フランスに大学制度はありません。2002年に制度化され、2年前にさらに法律が整備されて教育の質も上がっています。
- ――イギリスとフランス、オステオパシーの環境に違いはありますか?
- 一般的には、イギリスの環境の方が整っていると言えます。医学や歯学と同様に法整備され、責任が明確です。健康保険や社会保障システムの中にも組み込まれており、医師との連携も進んでいます。
- フランスは、2002年に制度化され、大学制度はありませんが教育の質は高いです。2年前にさらに法律が整備され、働く環境もよくなっています。しかし敢えて比較すると、フランスは最近制度化されたこともあり、まだ医師が医療現場を独占している傾向が強いです。
- ――「オステオパシー文化」とでも言うべき、オステオパスの特性の違いはありますか。
- 文化という面は、国によって法的ステイタスが違うので、その影響が大きいでしょう。しかしイギリスは1世紀以上の歴史があることもあり、伝統的アプローチを好むと言われています。それに対し、フランスは発明的、ベルギーは科学的な傾向があると言われています。
- ――興味深いですね。ところで先生は何的ですか?
- もちろん伝統的です! ESOのモットーは「ビジョンのある伝統」です。伝統を尊重しながらも新しいものに対し開いていること、オステオパシーの性質を保持したままの発展が大切です。
- ――オステオパシーは日本に向いていると感じているそうですね 。
- はい。日本には指圧や伝統的手技技法があり、研鑽を積むことを重視するなどの日本の文化もオステオパシーに合っていると思っていました。だからアキヨシ(下村彰慶学長)に出会ってすばらしい冒険が始まると思いました。よい教育を提供することで、イギリスのようにオステオパシーを統合していくことができると思っています。
- ――漠然とした質問ですが、日本のオステオパシー、手技療法業界は、どういう方向に向かっていけばよいでしょう?
- 全然漠然としていませんよ(笑)。日本には伝統的な基礎がありますよね。そのベースを保持したまま、科学的、臨床的な質の高さを伝統の中に組み込むことができたら、独立した医療分野として発展していけると思います。独立ということがとても大切です。独立によって伝統が保持されるからです。もし、医学、理学療法と混ざってしまえば、伝統と個性は失われてしまいます。
- ――専門職として確立する意味をわかりやすく簡潔に説明してくださり、とても参考になります。独立が伝統を守り、伝統が独立を守って、相互に強化されるのですね。カイロプラクティックでも同じことが言えるかもしれません。
- カイロはまた違いますよね。いつも独立してきました。
- ――確かに欧米ではそうかもしれませんが、日本では違いました。日本の手技療法界は、欧州のオステオパシーが独立確保のために歩んだ道のりから学ぶべきことは多いと思います。
- 今でも議論はあります。例えばオステオパスには、処方箋を出せるようになるのかどうかという選択肢があります。処方箋を出すのなら、教育の中で薬学が大きな位置を占めるようになり、アメリカのように医師と変わらない職業になっていきます。実際アメリカでは9割のオステオパスは手技を使っていません。それでも米に偉大なオステオパスはたくさんいますが。
- 医学は確かにものすごい勢いで発達しましたが、その中で失ったものもある。触診、身体検査、そして個人をセンターに置くということです。
- 医師の方法だと、私の専門としている婦人科では、子宮に問題があれば子宮を切除することになります。しかし80%の問題は機能的なもので、器質的なものではないので、80%は手術の必要ないのです。手技や栄養による治療の大切さがわかると思います。これらを忘れてしまえば、科学的な医療に助けを求めるしかなくなってしまいます。
- 私は医師と一緒に仕事をしていますが、手技治療の部分をきちんと保持したサービスを提供することにより、よりよい結果を得ることができているのです。また、医療現場ではいろいろなことが起こりますが、非可逆的な病気の場合でも、手技で助けられた経験もあります。
- ――オステオパシー治療には様々な可能性があるし、現代医療と連携することでまた、新たな発展の可能性がありますね。これからも日本のオステオパシーの発展のためにご指導いただければと思います。本日はありがとうございました。
ロンドンでクリニックを運営
英仏のオステオパシーの違い
日本が目指すべき方向は?
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