代替療法の世界 第12回「千古不易(せんこふえき」

このアーカイブは、カイロジャーナル紙(休紙)2019年2月からの記事です。

2018年7月、アメリカ西海岸で開業する岡井健DCが新刊を発表、その出版記念セミナーが11月に大阪、東京の順で行われた。読んだ感想を本Webで紹介してもらった経緯もあり、岡井DCのテクニックを目の当たりにしようと、先に行われた大阪の方に参加した。

 

岡井DCのテクニックに独自の工夫を見た!

岡井DCのテクニックには、随所に独自の工夫が見られる。ガンステッド・テクニックをベースに岡井流テクニックを作り出している。例えば、腰椎のアジャスト時に回旋方向を変化させるテクニックは、脊柱のバイオメカニクスに基づいても良く考えられていると思う。腰椎の回旋角度は数度しかない。つまり腰椎はほとんど回旋しないのである。ガンステッド・テクニックにおいてPR(棘突起右回旋)、PL(棘突起左回旋)の場合は、それぞれ側臥位の位置が反対になる。アジャストのたびに反対側を上にしなければならないのである。これは臨床的には、ひと手間もふた手間もかかる。岡井DCはこうしたリスティングに対しても、体位を変えなくても肘の角度を変えることでPR、PLの方向性を作り、アジャストができる方法を示す。岡井DCの「マイ・プラクティス カイロプラクティック 基本テクニック論」には、こうした方法が惜しげもなく載せられている。米国人から英語版が欲しいという要望もうなずける。

 

マイ・プラクティス カイロプラクティック 基本テクニック論

ハンディキャップを独自の矯正法に発展

ガンステッド・テクニックも元々はアメリカからのものである。Dr.ガンステッドはリューマチにより手の変形が著しいため、彼独自の矯正テクニックを開発した。カイロプラクティックのテクニックの中でも特異的なアジャストメントを使う。彼の体型にあった形でテクニックが発展していった。岡井DCは「カイロプラクターは一人ひとり体型も違うし個人差がある」、さらに「その人なりのテクニックを身につけなければならないし、それが絶対に必要だ」と。そこに着目すれば、名人と言われる治療家の技術も違った目で見ることができる。結果として、どんなに素晴らしい技術であっても、習得には自分なりの解釈が必要だということである。そうすることで自分なりの味が出てくるのだ。

 

レヴィ-ストロース博士の日本文化評

何事にも創意工夫は必要である。資源が乏しい日本ではそうすることで経済を発展させることができた。フランスの社会人類学者、民族学者レヴィ-ストロース博士による日本の文化評によれば、これだけ中国や韓国に近いにも関わらず日本という国は、他国から流入した文化を日本独自のものに変えているということである。例えば中国から伝来した漢字。日本人はその読みに音読みと訓読みを当てて大和ことばに取り込んだ。そのお陰で明治の近代化のとき、たくさんの外来語の概念に対して漢字を使って上手く表現した。今ではその恩恵を漢字の発祥地である中国も受けている。事実、日本人が作った熟語の多くは現在でも中国語の中に見られる。

 

ざっと挙げただけでも

例を挙げると、哲学、自治、反動、注射、運動、計算、訪問、存在、組合、集団、管理、社会、闘争、革命、文明、政治、経済、進歩、思想、世界、選挙、主席、共和、批判、 文化、保健、身分、立場、復習、服務、交通、方針、認可、市場、想像、作物、派遣、報告、物質、美学、抽象、代表、断交、常識、広告、漫画、意外、重視、革新、拡大、打倒、説明、解散、電卓、独裁、現象、概念、法学、調整、表現、 取消、手続、申請、布告、方法、修正、幹部、民主、生物学、化学、科学、改良、目的、左翼、政策、生産力、商業、新聞、主義、唯物論、唯心論、特務、財閥、独占、客観、意識、演奏、灯火、探索、現実、背景、治外法権など、ざっと並べてもこれだけの熟語が中国に逆輸入されているのである。これらの言葉を省いたら中国では文字文化が成り立たないであろう。最初は中国から輸入された漢字であったが、日本文化に融合されて独自の熟語を作り出した。このように日本文化は他国の文化に影響を受けながらも独自性を見失わなかった。

 

サイコロは6の目

漫画家の西原理恵子女史は「日本に生まれてきただけでサイコロは6の目」だという。色々な意味を含むと思うが、治療家も含め市井の人々の職業に対する意識の高さが国力の強さを裏付けているということか? その時々の流行を取り入れることもあるが、創意工夫するということは昔からずっと変わらない。日本人が他国の文化を取り入れてアレンジすること。そうした精神は続いて行くと思う。元号が平成から令和に変わっても、千古不易で日本人のアイデンティティは変化しないのだろう。治療家として自信がないという方は、レヴィ・ストロース博士がせっかく褒めてくれているのだから、素直にそれに乗っておこう。評価は自分ではわかりにくいが、他国の人から見た日本の評価はアテにできる。であるならば、個々人が創意工夫をする能力は十分に持っているということだから。


山﨑 徹(やまさき・とおる)

はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
・看護師
・柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)京都支部長
シオカワスクールオブ・カイロプラクティック ガンステッド学部卒NAET公認施術者
 
看護師、柔整師の資格を有する傍ら、カイロプラクティックとの出会いからシオカワでガンステッドを学び、21世紀間際にスタートした科学新聞社主催の「増田ゼミ」 で増田裕氏(D.C.,D.A.C.N.B.)と出会ったことから、以後、氏の追っかけを自任し 神経学、NAETを学ぶ。現在は専らオステオパシーを学び実践しているが、これまでに 身につけた幅広い知識と独特の切り口でファンも多く、カイロ-ジャーナル紙から引き続き連載をお願いしている。

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