第9回徒手医学会学術大会迫るカイロプラクティックジャーナル

  第9回徒手医学会学術大会迫る

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第9回徒手医学会学術大会迫る


カイロジャーナル59号2007.07.19 発行より

今年は浜松で開催。メインテーマは「歩行と運動」

JSCCの学術大会が第9回を迎え、私が大会長を仰せつかるとは夢にも思っておりませんでした。
しかし仰せつかった以上、会員の皆様方に臨床における有意義な価値と、多くの示唆をご提供することを第一と考え、実行委員一同一丸となって大会に向け尽力しております。特に今大会では、一般講演の充実と当学会の特色とも言える、ポスターセッションにおけるミニワークショップ的色彩を、さらに強めていくことを模索しております。
既成科学に縛られない視点
さて今大会のメイン・テーマは「歩行と運動」、サブ・テーマは「カイロプラクティックにおける全体性と内在秩序」であります。
我々は日々の臨床において理解し難い事態に遭遇したり、治療に行き詰まることがありますが、他のテクニックを使うにしろ、そのとき立ち戻るのは「カイロプラクティックの原理」であると思います。古典的にはサブラクセーションをアジャストし、イネイト・インテリジェンスを十全に発現させるというものですが、非科学的な感が否めません。それは、これらの概念が要素還元できない「全体論」的であるためでしょう。
そもそも人間は誰も本当の「全体」というものを明確に記述したり、観察したりすることができません。有名な量子力学者デビット・ボームは、真なる「全体性」は流動的な隠された情報として存在し、なんらかの働きがあったとき様々にわき上がって結像するとして、比喩的に「ホログラフィック・パラダイム」というものを唱えました。
カイロプラクティックの目指す健康というものが、固定的ではなく流動する外環境の変化に、柔軟に追従できる全体的なシステムそのものであるとすれば、必要に応じてわき上がって結像することを続けるリズミカルな生命の営み、それこそが「内在秩序」であり、古いイネイトから新しいイネイトに刷新できる足がかりとなります。
そこで今回のテーマが意味するところは、今までの治療原理に対して別角度の視点を提供することであり、その目的は実際の人体システムの作動原理を追究することにより、カイロプラクティックにおける臨床をより豊かなものにしていくことです。同時に、既存の科学に縛られない観点を提示して、カイロプラクティックの科学的追究をより皆様の身近なものとし、今後の学術大会においても、一人でも多くの先生に貴重な経験を研究発表していただける一助となることであります。
そもそも人体は動くことが基本であり、静止状態もまた運動であるのは我々の常識であります。今回、特に「歩行」をメインにしたのは、我々が臨床において、実は常に人体の運動を見ているとすれば、人体における最も基本的な運動形態である「歩行」から、日々の臨床に活かせる新たな視点と多彩な観点を提供できると考えたからです。
一般的な従来の歩行解析のようなものもある意味有用でしょうが、おそらく「運動」というものを、ぶつ切りにして数値化し分析した場合、既に「運動」というものの本質を取り落としてしまっている可能性があります。つまり、還元した要素をもう一度取り集めても、全体は提示できないというジレンマです。そして、この事態は同時にカイロプラクティック哲学原理にも深く関ってくる問題であろうと考えます。
そこで今回、最新の自律系システム論である「オートポイエーシス理論」における、日本の第一人者である河本英夫先生に基調講演をしていただき、まず皆様方に「運動」「人体」「治療」、さらには「人間そのもの」も「システム」として捉えていただこうと考えております。
これは同時に、数値還元主義的な科学論で提示できない、カイロプラクティックの本質に迫れる唯一の可能性であります。
システムでとらえる患者
「システム論」とは、「メカニズム」(機械構造)に対して「オーガニズム」(有機構成)を想定し、生物の起源や成長などの有り様から、物理的、心理的、社会的なものの仕組みを説明しようとするものです。要するに「システム論」は本質的には機械論でありながら、生気論のような全体性を破棄しない概念です。サブラクセーション・アジャスト概念も機械論であり、同時に全体論でありますので、我々は日々「システムそのもの」を実感していると言えるわけです。
システムとは、機械論的構造が多重に階層的に存在しながら、それらが一体となって作動する分割不能な構成態ですが、従来の「生気概念(例えば気など)」を「情報」という無形なものに置き換えて成立します。情報の伝達阻害はシステムの作動に支障を来すわけですが、カイロの古典的な「神経圧迫」概念はまさに情報伝達の阻害であります。
このようにカイロプラクティックの実態は、まさにシステムに対する介入であり、その正常化であります。
これらシステム論に、中でも「オートポイエーシス論」は最先端のシステム論であり、実際に精神医学や認知療法などにも応用されております。河本先生の講演により「運動」ということのみならず、「意識を含めた生体そのもの」「環境を含めた人間自体」をシステムとして再考していただき、患者さんの訴えを社会的背景まで含めた、全体的なシステムの問題として捉え直し、サブラクセーション概念を単なる局所的問題として止めず、それらの問題が生体に反映された「システム障害」であると考えれば、我々の行っている治療は古典的概念から脱却し、現代的な科学思想の元に再構築されます。
またオートポイエーシスの考え方は、概念の矛盾する多様なテクニックを各臨床家がそれぞれ体系化する上に、深い示唆を与えてくれるものでもあります。
システム論に関しての概略は、マニュアルメディスン誌に拙論を投稿してありますので、機会があればお読みいただければ幸いです。
また、特別講演の穴吹弘毅先生は当学会員であり、前大会で最優秀論文賞を授与された、カイロプラクティックに対する理解が非常に深い臨床医であります。今回の講演では、マッケンジー・アプローチを基本とした、ユニークな脊椎に対する考え方を提示していただき、現代医学における脊椎疾患の診断・治療のポイントや限界、また手術を含む脊椎関連の最先端治療の状況もお話しいただけることになっております。臨床現場最前線の専門家から直接、脊椎外科の最新医学知識を得られる機会は滅多にありません。日々の治療で脊椎に関して、いろいろな疑問を持つ先生方や医師との連携のある先生方は、この機会に現代医学に対する知見をさらに深めていただきたいと思います。穴吹先生は臨床で本格的に漢方も取り入れられており、単一の観点ではなく、いろいろな方向から問題を分析できる方ですので、きっと皆様方の糧になると思います。
さらにもう一つの特別講演とワークショップは連携したかたちで行われます。
特別講演をしていただく京都大学の小田伸午先生の研究分野は運動生理学、バイオメカニクス、行動学であり、特にアスリートを主体とした運動学分野では第一人者であります。昨今、甲野善紀氏により有名になった「ナンバ歩き」というものがありますが、その発展形である「常歩(なみあし)」の研究から行き着いた二軸動作を基本に、歩行運動動作の理論的部分を講義していただき、それが実際に治療やスポーツの現場などではどのように扱われるかという実践的部分を、小山田良治先生にワークショップで指導していただくようにお願いしてあります。
総体として運動する人体
我々はつい脊柱の動きのみを考えてしまいますが、実際の身体は多様な関節、筋群の総体であり、運動もその総体としてなされています。「歩行」も下肢のみの動きではありません。小田先生は左右の骨盤を含む下肢帯を脚の第1セグメントとし、運動は四肢だけではなく体幹の動きも重要であることを提唱しています。骨盤帯、肩甲帯を含めた運動学に関しては、最近関心が高まりつつあるところですが、小田先生は早くからこれに着目しており、その知見は日本でも屈指であります。ぜひこの機会に人体の総体としての動きという観点から、様々な多重複合された階層的な運動システム構成を考察していただき、臨床に応用していただければと思います。
また、患者さんにとってよりよい動きを取り戻していただくためには、我々自身がまずそのような動きを身をもって知ることが必要です。小田先生の理論をそのまま実践に役立たせていただくために、共に研究されている治療家であり、トレーナーでもある小山田先生にワークショップをお願いし、その指導により運動システムを体感的に掴んでいただければ、臨床的にも意義深いものになり、治療の奥行きも広がると思います。小山田先生は、元中日ドラゴンズの谷沢健一選手のアキレス腱痛を完治させた、故小山田秀雄先生のお孫さんにあたり、最新の運動理論と古流の柔術や格闘技などに基盤をおく治療法の、双方に造詣が深い先生です。
ここで、講義がよりわかりやすくなるための、事前に読んでおくとよい本を紹介しておきたいと思います。
河本先生の基調講演では、入門書としては『哲学、脳を揺さぶる』(日経BP社)がわかりやすくお薦めです。さらに突っ込んだ内容は『オートポイエーシス』マトゥラーナ、ヴァレラ著(国文社)、『オートポイエーシス-第三世代システム』(青土社)などがお薦めです。特に我々の治療に関係した部分が多い書籍は『システム現象学-オートポイエーシスの第四領域』(新曜社)がありまして、何度か読んでいただくと啓発される部分がたくさんあると思います。
また、小田先生の特別講演では、7月15日発売予定の最新刊『運動科学 実践編』(丸善)、『スポーツ選手なら知っておきたい「からだ」のこと』(大修館書店)などを読んでいただくと、さらに突っ込んで講義を聴くことができると思います。各先生方は現実に即した質問を待っています。皆様方の臨床経験に基づいた問題提起が活発に行われることを期待しております。
さて、本大会のような本格的カイロプラクティック学会が浜松で開催されることは、初めてのことであろうと思います。多くの先生方に参加していただきたいと考え、特別に愛知・三重・岐阜・静岡の東海4県で開業されている方には、会員の紹介があれば会員と同じ参加費で参加いただけるよう、一回限りの地元割引などの措置も用意いたしました。
今回の学術大会も今までの大会同様、実りある学術大会となり、JSCCの新たな10年の基礎たり得ますよう、実行委員一同熱意をもって準備しております。また開催地・浜松は、浜名湖を擁し富士山も眺望できます。江戸幕府を開いた徳川家康とも縁が深く、風光明媚な土地柄で歴史ある食や文化が楽しめる魅力あふれる街でもあります。ぜひ一人でも多くの先生方に参加いただき、日程に余裕を持って浜松の地を楽しんでいただきたいと願っております。
木村功・大会長より寄稿 平成19年6月吉日
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