プラユキ・ナラテボー師 仏教を基盤に精神的にも物質的にも豊かに 下カイロプラクティックジャーナル

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プラユキ・ナラテボー師 仏教を基盤に精神的にも物質的にも豊かに 下

  

カイロジャーナル81号 (2014.11.1発行)より

本誌25周年記念インタビュー

    
【前号から続く】

榊原 今(前号で)少しお話しした言葉のことも含めてお聞きしたいのですが、師は悩みを抱えて来られる方々と接する際に、何か注意されていることはございますか?
師 第一にはオープンハートで相手を信頼していくということですね。こちらが心を開いていられなければ、緊張が伝わって相手も心を閉じてしまいますからね。
榊原 そういう人、カイロプラクターの中にいるんですよ(笑)
斎藤 います、います(笑)
師 こちらがオープンハートなら相手もリラックスし、こちらが言ったことも素直に聞いてもらえやすくなります。それによって、お互いの信頼関係が生まれてきます。この信頼関係という土壌がなければ、いいコミュニケーションは成り立たないですからね。とても大事なポイントだと思います。
榊原 そうですね。ただ、オープンハートで患者さんと接しなさいと言われても、意味がわからない、できないという人が多いと思うのですが。
師 その辺はこれからご説明しようと思います。まずはざっとポイントとなる点を列挙していきますね。
榊原 これは失礼いたしました(笑)、よろしくお願いいたします。

 

師 二つ目は相手に純粋な好奇心を持ってコミットメントすることです。アラ探しをするとかとは違います。「あなたという存在にとても関心を持っているので、もっともっといろいろ教えて欲しい」という感じです。私自身、人の心の世界というものにすごく関心を持っているので、どんな人と出会っても基本的にそんな感じになってしまいます。例えば、手を幾度と無く洗わないといられないという神経症の症状が生じてくるのも、その人なりの理由があって症状として現れてくるわけですね。純粋な好奇心を持って接していくと、相手も自分の病気への嫌悪感といったものがなくなり、一つの興味深い現象として捉えられるようになり、より客観的な視点でその症状の軽減化を図ろうとする道が開かれてきます。
榊原 なるほど。
師 三つ目は心を「今ここ」に留めて置くことですね。心ここにあらずの状態で接していても親密にはなれないですからね。心を「今ここ」に置き、今会えていることに感謝しながら、相手の発する一言一句に耳を澄まして聞いていきます。何度も繰り返して、今ここ、今ここにちゃんと気づいていくことを習慣づけていくことによって、こうしたコミュニケーションも自然にできるようになります。
榊原 なるほど。
師 四つ目は受容することですね。こうしなさいとか、ああしなさいとか指示したり命令したりせず、まずは相手の言葉や気持ちをあるがままに受け止めていくこと。「受け」て「止める」のです。「そうだよね」「なるほどね」という感じでね。それによって、相手の言動を吟味できる余裕が生まれてきます。五つ目は相手から問われた疑問や悩みに対して、適切に理にかなった形でできる限り真摯に答えていく。おざなりにしたり、はしょったりせずに丁寧に答えていく。また相手とのコミュニケーションの中で何らかのズレが生じてきたら、しっかりとそれを認識して、修正を図りながらその人に合わせて対応していくことです。
榊原 軽視しないということですね。
師 そうですね。相手や相手の抱える問題を軽視しない、疎かにしないということですね。親身で誠実な姿勢がこちらにあれば、相手からも信頼されます。しかし、こちらが高圧的だったり、命令調だったりすると基本的な信頼感が築かれにくいですよね。
榊原 まさに今お話しいただいたような姿勢で患者さんに接することが、仏道を実践することになりますね。
師 その通りです。こういったコミュニケーションを心がけ続けていくことが、そっくりそのまま自分の修行になっていきます。私も瞑想したりブッダの教えを学んだりしてきました。そういった修行ももちろん自分の糧になっているのですが、それ以上に現実に人と触れ合って、今述べたようなことを一つひとつ実践してきたことが自分の成長につながってきたと思っています。ときには「プラユキさんはわかってくれない」と泣かれちゃったり、「プラユキさんと話しているとビジネスしているみたい」とか言われたりもしました。そういった指摘など受けて、相手をちゃんと受け止めていこう、もっとしっかりと心を込めて話していこうと学ばせてもらって、成長させてきてもらったと言えます。
榊原 それを実践していくことが、オープンハートになっていくための方法論なんですね。
師 まさにそういうことです。
榊原 わかりました。先ほどの私の質問に対してすべてご説明いただけました(笑)
師 瞑想を行う際にも、まずは「何が起こってきてもOK」という感じで、心の構えをつくらないでおきます。そして瞑想中、心に思考や感情やイメージなど生じてきたら、その都度、その都度、受容していきます。こういった作業の繰り返しからオープンハートな感覚や受容力といったものも自然に培われていきます。自我の鎧が脱げて壁がなくなり、信頼感が築かれ、相手の気持ちに共感できるようになっていきます。また言葉には、音声、内容、言葉を発する人の表情などのボディアクションといった三つの要素があります。それぞれの要素の影響力というのがあって、内容は7%、音声は35%、残りの58%が表情やボディアクションと言われているんですよ。
榊原 半分以上が見た目なんですね。
師 そういうことです。そして音声もまた話す内容以上に影響力があるんですね。やはりこの辺も心していないと相手に受け取ってもらえない。怒った調子で「怒ってはいけません!」と言われても、説得力がないですよね。
榊原 その辺でやはり葛藤を抱えているカイロプラクターも多いと思うんです。人を相手にする仕事にも関わらず、それがすごく苦手という人です。
斎藤 職業を間違ったんじゃないかと思える方を結構お見かけします(笑) 治療家になろうとは考えたことのない私から見て思うのは、その職業に就くには就くなりのことがあって選ばないと、ということなんですけどね。
師 なるほど。でも、そういう方々は逆にどういう思いで仕事をされているのでしょうか? そういった人であっても訓練次第で上手になるということを知ってもらえるといいですね。
斎藤 そうですね。
師 現状を理解した上で具体的な方法を知ってもらう。本人はそこで息詰まりを感じたり、ストレスを感じたりしているわけですから、それは苦しみです。そういった苦しみも解決できる。またカイロプラクティックという仕事そのものに楽しく取り組めて、仕事を通して自身の成長にもつなげていけるんだって気づけば、すごく良いですよね。
斎藤 先ほどお話しになられたように、本来は患者さんに向かって高圧的だったり、命令調だったりはタブーなわけですよね。でも、その人は何も気づいていないから、ずっとそのままの姿でやっていくわけですよね。
師 その辺の問題についてのヒントを二つご紹介したいと思います。一つは、人を導いていく際の順序次第として仏教に「開示悟入」という言葉があります。まず開くは相手に心を開いてもらう。そして示すですね。次に悟らしめて、その人が苦しみの世界から抜けて、幸せな世界に入れるようにする。その際、開くが非常に大事なポイントになります。もう一つ、認知行動療法が最近注目されてきていますが、人間には認知と行動のレベルがあるんですね。認知が「感応」になっちゃっているのか「共感」になるのか、そして行動の方が、「反応」しちゃうのか、それとも「対応」できるのか、これによって全く違った状況が生まれてきます。感応というのは、相手の感情などに影響されて、こっちも動揺してしまうこと。それに対して、共感というのは、その人のあるがままの感情にアクセスしつつも、悪影響を受けずに「そうだよね」って、その人のあるがままを認められていく。一方、行動面ですが、反応は相手の言葉に無自覚に反発したりして、失言などもしちゃう感じですが、対応というのは相手の言葉を吟味した上でその人がより良く変わっていけるように言葉や態度で示すといった感じ。そういう意味で、認知と行動のどちらともとても大事なんです。その際、手放していられるかということが鍵です。なぜかというと、手放せないからこそ「感応」や「反応」になってしまうからです。相手がギュッとなったとき、こちらもギュッと一緒になってしまう。連動してしまうのです。ですから一回、一回手放す。相手の言葉を丁寧に受け止めてベストの対応をしていく。でも結果にはとらわれない。そんな感じで微調整しながら進めていきます。そういったプロセスがそっくりそのままお互いの関係を深めることになるのです。
榊原 問題はほとんどの人がつかんでしまっているということですね。
師 そういうことですね。仏教では苦しみの根本的な原因は執着、すなわち、しがみついてしまうこと。はまりこんで対象に同一化してしまうことであると見なしています。それに対して仏教用語で「捨」という言葉がありますが、手放すこと、とらわれないことで、執着の解毒剤で、心の自由を得るための特効薬とされています。「求不得苦」という言葉がありますが、求めるものが得られないときには必ず苦しみが生じてきます。ですから、求める心を最初から落としておけば、苦しみも生じてこないという原理です。
榊原 わかりました。それから個人的な質問なんですが、私がカイロプラクターとしてトリノ五輪へ行ったとき、帰りの飛行機の中で隣にアメリカ人の初老の女性が座られていて、ちょっと話をしているうちに私にこんな質問をしてきたんです。「より良いカイロプラクターとなるために、あなたは何が一番必要だと思いますか?」と。
師 それは本質を問われましたね。
榊原 そうなんです。
斎藤 その方は、カイロがどういうものか、ご存じで聞かれたんでしょうか?
榊原 はい、ご存じだったと思います。そこで師にお聞きしたいのですが、もし同じ質問をされたとき、師であればどのようにお答えしたのかというのに興味があります。知識や技術を磨くというのは、当たり前のことだと思うんです。それ以外の部分でカイロプラクターとしての成長を促すためには何が必要だと思われますか?
師 仏教でいう「念(サティ)」、心を「今ここ」に置き、自覚的にマインドフルネスで患者さんと向き合っていくことでしょうか。そうすれば、「今ここ」で起こっている現象、すなわち患者さんの身体や心がライブで変化していく微妙な感覚がわかってきます。ライブで気づいていれば、ライブで対応していける。瞬間瞬間に変化する自他の身体や心の様子が感知できて、それに応じて細やかに対応をしていける。ブッダが一番大事な心のあり方として説かれたのが、こうした心の覚醒力ですが、瞑想することによってこうした力も育てていくことができます。この力は汎用性があって、いろいろな能力を向上させてくれます。
榊原 気づきを保つということですね。
師 はい、そうです。そうした今ここに気づく能力が心の安定や智慧、慈悲などを育む上での基盤となる認知能力になるということです。実際に気づきがあると、今ここにおいて主体的で自由な選択が可能になってきます。逆に言えば、私たちは心の癖のままに反応するというのがデフォルトになっているんですね。そうなると、その癖以上のパフォーマンスは生まれてこないということになります。気づきがあれば、そこからより良い方向というのを一瞬一瞬に見い出して、常に向上していける。カイロプラクターであれば、相手の体についての理解や施術の技術、また相手とのコミュニケーション能力もどんどん向上させていくことができるでしょう。
榊原 そのような心の状態を維持して、患者さんと向き合うことで症状に対する洞察が現われてくるということですね。
師 まさにおっしゃる通りです。今、洞察という言葉が出てきましたが、気づきを培って、心の落着きや安定性を増すことが、まさに洞察の土台になるということです。それらが基盤になければ、洞察能力は開発されませんし、明晰な智慧は生まれてきません。ここはすごく大事なポイントかと思います。
榊原 まずは気づきがあり、そこから心の安定が生まれ、洞察能力が育まれる。そして智慧として結実するということですね。
師 はい、そういうことですね。
斎藤 ところで、飛行機の女性には何と答えられたんですか?
榊原 そのときは、僕も偉そうに「まずは、より良い人間とならなければならないと思う!」と答えました(笑)
師 なるほどね(笑)。それも大事ですよね。
斎藤 より良い人間ですかぁー、より良いというのは何かと比較してるわけですよね。その時々にその対象物が変わって、常に何かと比較している。その時々ではなく自分の中に価値基準というものがあれば、これはいけるなぁーとしみじみ思いますね。
師 なるほど。今、良いという言葉が出てきましたが、仏教には善という言葉があります。仏教では「抜苦与楽」、すなわち苦を抜いて楽を与えるということが、善いということの指標なんですね。自分おいても相手においても、また、身体においても心においても、より苦が減少し、楽や幸せが増えていくことが善なることなのです。
斎藤 なんとなくわかるような気がします。単純に、こっちのほうが良いものなんでしょう、という風にしか見てなかったので、常に相対的に見ていたんでしょうね。
師 なるほど。今言われた相対的に見るという見方が、仏教でいう「縁起観」というやつなんですよね。私たちの心は物事のすべてを相対性に価値判断しており、それによってさまざまな思いや感情などが一瞬一瞬生じてきているということ。それが縁起で観るということなんです。此あれば彼あり、此なければ彼なしということです。
斎藤 本日は本当にありがとうございました。11月のご講演のときにも、参加者の皆さんには自分たちがやっていることはもっと大きな世界につながるんだ、ということに気づいてもらえたらと思っています。自分を高めようとしないで高まるわけがない、何であれ一人前になる方法をやっていけばいいわけですよね。諦めた瞬間に他のことも諦める、そんなカイロプラクターたちをずいぶん見てきましたが、そういうことが彼らの決断にはつながってなかったような気がします。
師 はい。少しでも皆さんのモチベーションがアップするようなお話ができればと思っています。日頃は瞑想などにも関心を持って私の講演を聞きに来られる方が多いのですが、今回はカイロプラクターたちのニーズを知っている榊原さんたちから質問をしていただいたほうが、私としてもニーズに合ったメッセージをお伝えできるのではないかと思います。当日が楽しみです。今日は本当にありがとうございました。

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