その症状 食生活に原因? 【下】 目崎勝一カイロプラクティックジャーナル

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その症状 食生活に原因? 【下】 目崎勝一


カイロジャーナル83号 (2015.6.28発行)より


目崎カイロプラクティック治療室院長 目崎勝一

骨の代謝障害と海藻の関係を示唆する症例
甲状腺機能の異常  見当違いの治療は避けたい

患者さんが腰痛、膝痛を訴えて来室し、いざ検査してもサブラクセイションが見つからないとき、その原因は生活習慣、特に食生活に原因があるかもしれません。今回はシリーズの最終回として、骨の代謝障害と海藻に密接な関係があることを示唆する症例を紹介しようと思います。

症例1

19歳の演劇とバレエ志望の女学生。自転車に乗っていて自動車に追突され、転倒時に膝を打撲。事故後に膝よりも腰が起立時と伸展時にズキズキと痛むようになったとの訴えでした。整形外科での検査では、どこにも異常は見つからなかったとのことです。

検査結果

脊柱の可動性触診では制限されている部位はありませんでした。筋力検査では、全てのTL(セラピーローカリゼイション)が陰性になり、健康体と判断しました。ただ、右肋軟骨に手掌面でTLすると陽性になりました。肋軟骨が損傷を受けると、腹腔が受け持つべき前方の体重負荷が後方に移動し、全ての負荷が腰椎部に集中するため腰痛が発症したと考えられます。

治療とその結果

肋軟骨の損傷に対しては弾性の胸帯を装着するしか方法はありません。胸帯装着直後に腰痛はなくなりましたが、最初の1週間は24時間、次の2週間は起きている時だけ装着してもらいました。食品の検査では、アルコール、乳製品、大豆、海藻が陽性になりましたので制限してもらいました。3週間後、肋軟骨のTLは陰性になり、全ての症状はなくなり治療を終えることができました。因みに、肋軟骨の損傷が首肩腰の症状の原因になることはよくあることで、さまざまなサイズの胸帯を揃えておくことをお勧めします。

その半年後

本人には思い当たる原因もないのに、歩行時や動作時に右股関節と下肢外側が痛いと来室しました。肋軟骨の損傷もなく、サブラクセイションもありませんでした。こんな元気な女性がなぜ腰痛になるのかと思っていると、喉にて炎症を示唆する手背面によるTLと、甲状腺疾患を示唆する銅棒によるTLが陽性になり、右大腿骨の転子部にてカルシウム不足を示唆する骨棒によるTLが陽性になりました。これらTL陽性は、甲状腺機能亢進症の治療薬メルカゾールを乗せると全て陰性になりました。これらの検査結果から、甲状腺の機能異常による骨代謝障害が原因と推定しました。患者さんに食事制限を守っているか、特に以前制限するように言っておいた海藻を食べていないか聞くと、毎日幅20センチ、長さ10センチの昆布を2枚、それとおやつ感覚で味付け海苔を5パックほど食べているとのことでした。再度食品の検査をすると、初診時と同じ結果になりました。治療としては、食事制限を守り、念のため胸帯をするように言うのみでした。1週間後には全ての症状はなくなり、バレエの練習を再開できるようになりました。

患者さんは食事制限の重要性をなかなか理解してくれません。症状がなくなれば忘れてしまうため、このような二度手間を掛けることになりました。

症例2

57歳の女性。3カ月前の登山後、動作時に右大腿外側から踵にかけてピリピリしてむくんだような重だるさが出ました。10年前より座位にて両坐骨部の痛み、下部腰椎部に常時張っているようなだるさ、詰まっているような肩こりがあります。10代から運動時に右踵痛が出るとのことです。病歴としては、30代と40代に卵巣と子宮の摘出手術を受け、毎年春先に花粉症に悩まされています。アレルギー薬のエピナスチン、消化潰瘍薬のガスロン、鎮痛薬のトラマールとセレコックスを服用しています。

検査結果

可動性触診では、この患者さんも脊柱に制限部位はありませんでした。筋力検査では、症状のある部位にてカルシウム不足を示唆する骨棒によるTLと、喉にて甲状腺機能異常を示唆する銅棒によるTLが陽性になりました。それ以外のTL陽性はなく、健康体と推定しました。骨棒TL陽性はカルシウム剤で、銅棒TL陽性は甲状腺機能低下症の薬チラージンを乗せると陰性になりました。以上の検査結果から、症状の原因は甲状腺の機能低下による軽度の骨粗鬆症によるものと推定しました。食品の検査では、海藻、大豆、カフェイン類、アルコール、砂糖、果物、そばが陽性になりました。命に係わる重要な薬を服用していませんでしたが、一応薬品の検査をすると、全ての薬が陽性になりました。

治療とその経過

椎骨の矯正はありませんでしたので、筋力検査陽性になった食品と薬を止めてもらい、カルシウムを補給してもらうだけになりました。ただ、どのカルシウム剤も筋力検査陽性になってしまうので、食品から取るしかありませんでした。食品の中では特にゴマが効果的なので、毎日摺りゴマを大匙2杯食べてもらいました。また、この患者さんは良かれと思って毎日昆布水を長年飲み続け、海藻類を意識して多く取っていたそうで止めてもらいました。3週間後の検査では、患部の骨棒によるTL陽性は少し残っていましたが、症状はほぼ軽快していました。この患者さんは食事制限を行ってから、春先の花粉症も軽くなり、今までの人生の中で一番体調がいいと言ってくれました。

考察

M.F.ホリック/B.ドーソンヒューズ著『骨の健康と栄養科学大辞典』(西村書店)には次のような記述があります。「骨の代謝機能は主にカルシウム調節ホルモンである副甲状腺ホルモンとビタミンDによって調節されている。……甲状腺機能亢進症では、副甲状腺ホルモン値が低下していても骨吸収、形成がともに上昇する。しかしながら、甲状腺ホルモンはビタミンDの活性化を促進しないため、甲状腺機能亢進症の患者ではカルシウム吸収が低下していると思われ、逆に甲状腺機能低下症の患者では骨の代謝回転が低下しており、副甲状腺ホルモン値が上昇するものと思われる。いずれにしても、甲状腺機能亢進症・低下症ともにその既往があれば骨折のリスクが高まる」とあります。さらに、赤須文人著『甲状腺の病気』(講談社)には次のような記述があります。「甲状腺がまったく正常な場合には、いくらヨードをとっても基本的には何の問題もありません。正常な甲状腺には多量のヨードをとっても影響を受けないような防衛機能があるのです。ところが、甲状腺に問題がある人の体内にたくさんのヨードが入ってくると、甲状腺機能に異常が起こることがあります。例えば橋本病の患者さんがヨードを多量にとった場合、甲状腺機能低下症になることがあります」これらの著書から分かることは、甲状腺の機能の異常は骨吸収を亢進させ、骨粗鬆症の原因になり得る。そして、海藻が甲状腺の機能の異常の原因になり得るということです。

症例1の患者さんは甲状腺の機能亢進症であり、症例2の患者さんは甲状腺の機能低下症でしたが、いずれも海藻を大量に取っていました。そしてどちらも海藻が筋力検査陽性になり、それを取らないことによって症状が軽減しました。海藻は低カロリーでミネラル分豊富な健康食品だと思われていますが、一部の人にとっては問題のある食品になり得るようです。
アメリカの甲状腺財団の調査報告では、甲状腺機能亢進症は、女性では0.3%、男性では0.03%が発病するそうです。その一方甲状腺機能低下症は、60歳以上の女性では17%、男性では9%が発病するそうで、これは国民病といわれる糖尿病と同じくらいの数になります。その意味で、今回の症例、特に症例2の患者さんは決して稀なケースではないと思われますので、全ての患者さんで海藻を患部と喉で検査してみてください。

一般に、骨粗鬆症の患者さんは、今回の海藻とともに前回前々回に紹介した大豆、カフェインにも筋力検査陽性になることが多いようで、その原因は複合的なものとなるようです。

結語

私は本来カイロプラクターであり、長年アジャストメントの工夫改良に努力してきました。その意味で、新しい患者さんが来る度に、症状の原因がサブラクセイションであることを願うのですが、自由診療の私の治療室ではその割合は2~3割ほどしかいませんでした。症状の原因で最も多いのは、生活習慣、特に食習慣を原因とする慢性疾患に由来するものでした。当然その治療は食習慣の改善が第一となるはずです。ところが、この分野は現在の医療では全く見過ごされたままで、多くの患者さんが見当違いの治療を受けています。できるだけ多くの食品サンプルを作り、全ての患者さんで検査してみてください。新しい治療の世界が開けると思います。

(了)

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