小児カイロプラクティックの臨床 第4回(最終回)カイロプラクターとしての十年をふりかえって
手による仕事の奥深さ実感 子どもの成長が大きな励み
カイロジャーナル85号 (2016.2.18発行)より
修士課程へ
卒業後すぐにオーストラリアに渡り、Drニール・デイビスの小児カイロプラクティック・クリニックで見た光景が私の人生を大きく変えることとなった。赤ちゃんや子どもがたくさん訪れるクリニック。そのクリニックで数カ月を過ごしで多くの症例を見て学んだ。英国に小児カイロプラクティックの修士課程があることを知ったとき、険しい道のりになるだろうことを予測しつつも私はそれを選ばずにはいられなかった。
経済的に裕福な家に生まれたわけではない。家族からの経済的サポートは期待できず、大学院に進むなら自力で何とかしなければならなかった。実際に学費を捻出するのは簡単なことではなかったし、卒業にも時間がかかった。小児カイロプラクティックの修士号を私が取っても取らなくても世界は回り続けるのだ、と何度も思った。けれど、時間がかかってもいつか絶対に卒業するとも決めていた。
そして、その「いつか」は実現した。RMIT大学卒業後の私の選択は風変わりだったが、そのような私の決断を尊重し支えてくれた家族と、私を導いてくれた恩師たちには特に感謝している。
一人ひとりに向き合う
日々の小児カイロプラクティックの臨床では、向き合う患者さん一人ひとりにその時に自分のできる限りのことをしているのだが、時を重ね経験を積むことにより知恵が蓄えられ手が育っていくことを実感する瞬間がある。そこに手によって行うということの奥深さを感じる。
実に様々な症例や状況の子どもたちが来るので、未来ある子どもとその家族に関わるという特権に引き締る思いがする。その日の十人目の患者であっても、何十回目の来院でも、重い症状でもそうでなくても、なるべく新しい気持ちで向き合うようにしている。簡単な仕事ではないが来院する子どもたちの成長や喜びの声が大きな励みになる。
世間一般の観点からすると、カイロプラクティックは人々にとって必要不可欠なものではないし、健康回復のための唯一の道でもないだろう。子どもに受けさせることに抵抗がある人もいるだろう。しかし、カイロプラクティックによって健康を回復していく子どもがいることも事実だ。より多くの子どもが小児カイロプラクティックによる恩恵を受けられるにはどうしたらよいか、ということを長く思案してきたが、昨今の世の中の様々な事件や事故を聞くうちに、確かな歩みを進めていくことが何より優先すべきことではないかと考えている。
私にとっての確かな歩みとは小児カイロプラクティックを日本に根付かせるために前例を作ること、そのためにコツコツと臨床をすること。そして少数かもしれないが後進を導くことだと考えている。
安全のための研鑽不可欠
小児カイロプラクティックでは、倫理面で配慮すべきこと、安全を担保するために必要な知識や技術など、成人の臨床とは異なる点がある。小児カイロを行うには誰もが小児カイロプラクティックの修士号やICPAのディプロマを取らなければならないということではないが、小児を受け入れるカイロプラクターは安全を担保するために研鑽するべきだろう。
本来、カイロプラクティックとは人々の健康に携わる職業であって商いではないはずだ。個の主張や利益ではなく人々の健康と安全を優先させ社会的責任を果たすならば、然るべくして日本においても国際的な基準が遵守されるであろう。
これからも小児カイロプラクターとして、目の前のことを心を込めて行うというそんなシンプルな生き方をしていきたいと思う。次の十年も、一人ひとりの患者に向き合い手の仕事をしていく。
- 臼田純子(うすだ・じゅんこ)
- 2006年、RMIT大学日本校(現・TCC)卒業(B.App.Sc/B.C.Sc.)。在学時の授業がきっかけで小児カイロプラクティックへの好奇心が芽生え修学を継続した。
- オーストラリアのカイロプラクターで小児カイロプラクティックのパイオニアであるニール・デイビスに師事し、KiroKids 小児カイロプラクティックコースを修了。
- 2014年12月にイギリスのマックティモニー・カレッジ・オブ・カイロプラクティックの小児カイロプラクティック修士課程修了(MSc.Chiropractic(Paediatrics))。
- 地元静岡市でヘルシーライフセントラルを開業するほか、RMIT/TCC卒業生で運営するクリニックのリガーレ横浜と新宿で臨床を行っている。