カイロプラクティック・オフィスだよりfromアトランタ 第7回
日本からの帰任を境に悪化
初診時の丁寧な問診が改善導く
矢島敬朗
カイロジャーナル89号 (2017.6.19発行)より
第7回 手のしびれ
今回は手のしびれで来院された50代男性のケースです。この患者さんは、来院3週間前に日本から赴任されてきたばかりでした。首や手に違和感が現れてきたのは赴任後1週間程経った頃のこと。もともと慢性的に肩こりがあり、今回もいつものことだと思い放置していたら、だんだん痛みがひどくなり、首から肩甲骨、右上腕、さらに前腕にまで痛みを感じるようになりました。そして、日を追うごとに酷くなるその痛みに加え、しびれも感じるようになったそうです。
早速、問診を開始し「痛みが出るタイミングは?」の質問に「会社に着いてデスクワークを始めると30分経たないうちに、頸部や右上腕が痛くなってくる」と答えられました。次に、机や椅子の高さ、パソコンの画面の位置などのワークステーションついて尋ねたところ、やはり日本に居た頃とこちらへ来てからでは大きな違いがあったようです。こちらでは椅子は大きく、座ると深く沈みこむ、いわゆる役員用椅子タイプのものを用意され、机は椅子に比べて高く、パソコンの画面やキーボードの位置も不自然に高くなってしまい、作業をする時には画面を見上げ、肘を広げてキーボードを打つような姿勢になっているとのことでした。これを聞いた私は、まずワークステーションの改善を勧めました。あきらかに自分の体に合っていない机や椅子の高さ、パソコンの位置のせいで変な姿勢になってしまい、肩や首に負担がかかっていると思ったからです。ですから、机や椅子の高さ、パソコンの位置を適正にするだけで症状は軽減できることをお話ししました。
その後、診察に入り姿勢検査をしたところ、前額面では腰の位置、第7頸椎と第5腰椎の位置、肩の高さ等が全て左に傾いていて、頸椎と頭の位置は逆の右に傾いていました。体重差は右に約5キロずれていました。横断面は腰の回旋5ミリ、肩の回旋8ミリ右前に捻りがあります。矢状面は頭の位置が肩に比べて約20ミリ前にずれていて、いわゆる猫背体系です。この姿勢検査で、この方は全体のバランスが上半身、特に右側に負担がかかりやすい為、今回も右側に症状が出たことがわかりました。
さらにレントゲン検査で上部頸椎セット(Lateral、Vertex、Nasium)を確認したところ、第5~7頸椎の椎体の間が減少していて骨棘も見えました。第1~7頸椎は右に4度ずれていました。さらに第1頸椎の回旋は右前5度、第2頸椎の回旋右前4度でした (写真参照) 。頸部も右前に圧迫が起きやすくなっている歪みなので5、6、7頸椎神経の圧迫も考えられました。椎間の減少と骨棘は通常数週間で起こるものではないので、10年以上の蓄積からこの状態になったと考えました。これらのことから、この方は猫背で姿勢が悪く、体全体は左に傾いているのに首は右前に傾いているせいで、長年首に過度の負担がかかっていたのだと思います。その上、今回の海外赴任で、生活環境や職場環境の大きな変化などの度重なるストレスで一気に症状が出てしまった、というのが私の見解でした。ご本人には、痛みとシビレがかなり強いため、症状の改善には1カ月、完治には最低3カ月ぐらいかかること、さらに改善が見られない場合にはMRI検査をすることも了解していただき治療を開始しました。
治療方法は、どこの圧迫を除去していくかがポイントとなりました。根本的な背骨の歪みは左なので、まずは、この歪みを改善させながら頸椎右側の圧迫を除去する2重の除圧方法を取りました。調整時は横向きになって寝ていただくのですが、その姿勢を取るだけでも顔を歪める程症状は深刻でした。調整後、自宅での頸椎の圧迫を取るストレッチ法や日常生活の姿勢の注意点などをアドバイスし初日は終わりました。
1週間後の来院時、とても晴れやかな顔で「首の痛みはまだあるが、腕のシビレは明らかに少なくなった」と話してくださいました。その後も週1回の治療を続け、1カ月後にはほとんど首の痛みもシビレもなくなりました。ですが、まだ若干、猫背姿勢気味なので、現在は良い姿勢への改善目的に月1回のメンテナンス治療に来ていただいています。
今回の早期回復は、初回問診時に症状の根本的な原因を探し出したことで、適切な治療、生活指導ができたことが良い結果に繋がったのだと思っています。残念ながら、昨今の医療業界の流れは、型通りの問診しかせず、それよりも多種検査(時には不必要な)を行い、検査結果に重きを置いて治療に入ろうとします。しかし、昔から「診断の80%は問診から」と云われるように、特に初めての患者さんは、初診時にいかに多くの情報を聞き出せるか、得られるかが治療の効果、早期完治に影響すると、今回、改めて痛感しました。私も含め、カイロプラクティック業界においても、各種検査を行い治療の参考にされる医院、カイロプラクターの方も多いと思いますが、まずは患者さんの声に真摯に耳を傾ける、そんな初心を忘れることなく患者さんと向き合っていく姿勢を大事にしたいですね。
- 矢島敬朗D.C. (やじま・よしろう)
- 和泉カイロプラクテイック・アトランタ(米国ジョージア州)院長
- 1970年東京生まれ
- 柔道整復師として働いた後渡米し、2009年ライフ大学卒業
- 上部頸椎調整をメインとしたカイロプラクテイック・ケアを実施する
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