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カイロジャーナル79号

  • WFC会長デニス・リチャーズD.Cインタビュー
  • JACシンポジウム開催 安全教育推進決定
  • 年末に恒例のソウルナイト
  • 「充実の2日間」日本カイロプラクティック徒手医学会
  • ロバート・ワッサーマンDCの私のカイロ人生inシンガポール

WFC会長デニス・リチャーズD.Cインタビュー

良い哲学モデルは人生のガイド

WFC会長インタビュー

――昨年11月に開催された日本カイロプラクターズ協会(JAC)シンポジウムで、世界カイロプラクティック連合(WFC)会長のデニス・リチャーズDCが「カイロプラクティック哲学と最新世界情勢」をテーマに講演を行った(2面に関連記事)。WFC現会長の哲学および世界情勢に対する見解が聞ける貴重な機会となった。帰国後、講演に関連した本紙の質問状に回答を寄せていただいた。

カイロ哲学・ルーツはギリシャ、アジア哲学と多くの共通点

――今回のリチャーズ先生の講演には、カイロプラクティック専門職は哲学から学ぶべき事がたくさんあるというメッセージが込められているように感じました。しかし、近年は米国CCEの教育基準も変更され、伝統的なカイロ哲学はカイロ教育の必修科目ではなくなりつつあります。WFC会長として、また一人のカイロプラクターとして、哲学をどのように位置づけるべきだと思われますか? DDパーマー、BJパーマーの伝統的カイロ哲学は、学問的に純粋な哲学なのでしょうか。

11月の東京講演で述べたことは、ロシア系アメリカ人の小説家で思想家であるアイン・ランドの思想をベースとしています。ランドは、個人的および仕事から得た多くの経験、観察、知識を思想や原理に統合する選択しかないということを述べています。

人生で出会う膨大な出来事は、特にお互いに衝突する要素が多い場合には心理的に対処できる量を超えています。私たちにできるのは、意識的、合理的、慎重にその価値と真実性を検討し判断することか、または深く考えずに無意識、無作為に受け入れるかのどちらかです。
私たちは注意深く合理的な統合を行うために賢くなくてはなりません。古典的な哲学は、知恵を追求し、見習うべき最善の人生を探求するものです。よい哲学モデルをつくれれば、個人的にも職業的にも生産的で快適な生活ガイドとしてそれを利用することができるでしょう。私はこれが大変重要なことだと思っています。

カイロ学生は、カイロ哲学の古典を注意深く検証すべきだと思います。それなしに発展を重ねてきた私たちの職業が根ざす部分を知ることはできません。古典を学んだ後に、知識に基づいた外的な影響と新しい発展の価値を観察し判断することができるでしょう。例えば、最近の量子力学の発展により、エピジェネティクス(後成的遺伝学)、ネオバイタリズム(新生気論)が古典的カイロ哲学に密接な関わりがあることを理解できるでしょう。

伝統的カイロ哲学は本来的な哲学です。その理由を二つ述べます。第一に、DDパーマーは、『カイロプラクティックの原理』を新たに書いたのではなく、直接ギリシャ哲学から取ってきたのです。ギリシャ哲学はイギリスとヨーロッパ大陸の哲学の基礎であり、アジア哲学との共通点も多いのです。これらは事実です。

第二に、伝統的カイロ哲学は、カイロのパイオニアが彼らの経験、観察、知識を、原理と哲学大系、経験の総合的見方に統合したものです。だからこれは真の哲学です。

私は、世界が直面する高齢化社会は、不健康なライフスタイルが原因の病気、高額な医療費、その他の現代医学の直面する困難は、効果的で対費用効果の高い、持続可能で安全な方法で対処するべきだと思います。カイロ哲学のバイタリズム、ホリズム、自然主義などは、伝統的なアジアの哲学/ヘルスケアと共通点があり、医療の問題を解決する手助けとなり得るでしょう。

――サブラクセーションはカイロ哲学の重要な用語でしょうか。サブラクセーションからカイロ学生が学ぶべき概念とは何でしょうか。サブラクセーションを臨床用語に含めることには賛成しますか。

サブラクセーションは第一義的には哲学用語というより生理学用語です。しかし東京講演でも説明しましたが、ドクター・バージル・ストラングが『エッセンシャル・カイロプラクティック』(邦訳・増田裕DC、科学新聞社発行)で述べているように臨床哲学モデルとして重要な要素です。学生はこの考えをもとにしたアプローチをするとよいと思います。しかし学生は最近の情報についても勉強すべきです。サブラクセーションに関連する科学の発展についてまとめた本『カイロプラクティック・サブラクセーション』(メリデル・ガッターマン著、エンタプライズ発行)が1984年に出版されました。この本の情報があるので、私は当然のこととして、サブラクセーションを臨床用語に含めます。

――オーストラリアのマッコーリー大学はカイロプラクティック学部閉鎖を決めました。この決定が発表されると、オーストラリア・カイロプラクターズ協会(CAA)会長は、カイロ専門職は研究を強化しなくてはならないと会報誌で訴えました。このような状況はオーストラリアのカイロの哲学教育に何らかの影響があるでしょうか。オーストラリアのカイロプラクターは今後、もっと証拠に基づいた治療(EBP)に向かうでしょうか。

私はこのことがオーストラリアのカイロ哲学教育に影響を与えるとは思いません。オーストラリアでは、正規のカイロ教育課程にカイロ哲学はほとんど含まれていません。また、研究の強化には、哲学分野の研究も含められるし、またそうすべきだと思います。

重要な点として述べたいのは、EBPは臨床医療の一つの哲学モデルだということです。ある人々がこれを作り上げ、臨床で踏襲すべき最もよい方法として推進しました。EBPを説明する際は通常、最も信頼性の高い研究を、臨床経験、患者固有の価値観、患者特有の状況と統合する必要性があることが指摘されます。つまりEBPには4つの部分があるということで、研究を根拠とするというのはその一部でしかないわけです。私の経験では、ほとんどの人は、科学研究の結果よりも自分が学んだことと経験をもとに臨床を行います。科学研究は少なくとも現在のところ、臨床情報としてそれほど多くのものを生み出していません。

カイロは治療家や科学者ではなく、私たちが貢献すべき患者を第一に重視すべきです。ですから、患者の価値観と状況は、最後ではなく最初に考慮すべきことです。実際、もう一つの臨床哲学モデルとして「価値基準に基づく臨床」が提案されています。

――今回の講演では、臨床に基づく研究(PBR:Practice Based Research)という研究手法とその可能性について紹介してくださいました。無作為比較試験(RCT)よりも、PBRの方がカイロの有効性を示すのに適した研究手法なのでしょうか。WFCがPBRネットワークを世界に広めるために主導的に活動する計画はありますか。

私は、カイロ治療というものがホリスティックであり、個々に対応するという性質を持っているという理由で、PBRネットワークのアプローチは、還元主義的、または杓子定規なRCTよりも適切な結果を導き出すだろうと信じています。WFCでは現在のところ、世界大会で研究発表の場をつくり、研究全般を推進するという活動以外には、具体的なPBR推進のための計画はありません。

――「カイロプラクターがカイロ・テクニックを非カイロプラクターに教えることの是非」は、日本のカイロプラクターおよび医療従事者にとって非常に重要な問題です。これに関してはどのようなご意見をお持ちですか。WFC指針に従わない人々に対しWFCは積極的に対応策をとるべきだと思いますか。

私はカイロプラクターはカイロ・テクニックを非カイロプラクターに教えるべきではないと信じています。主な理由は安全性です。カイロ・ケアは特別なアプローチであり、適切に訓練された人により行われれば非常に安全ですが、適切に訓練されていない人が行えば危険である可能性があります。これは飛行機に搭乗者を乗せる場合に、適切な訓練を受けたパイロットであればとても安全ですが、そうでない人が操縦すればとても危険であるのと同じです。WFCはできる限り日本、その他の国々でカイロプラクターがカイロ・テクニックを非カイロプラクターに教えている現状の改善をサポートしていくべきです。

デニス・リチャーズWFC会長

デニス・リチャーズWFC会長

プロフィール
デニス・リチャーズDC

1978年パーマー大学を優等で卒業。30年以上臨床に携わっており、現在豪州ニューサウスウェールズ州で開業。2008年より大学で哲学を学び始め、2013年から「カイロ教育におけるバイタリズム」をテーマとした博士論文を執筆中。2005-2009年CAA会長。WFCの役職は、2001年から太平洋地域代表、副会長を経て、2012年に会長就任。


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JACシンポジウム開催 安全教育推進決定

昨年11月2日(土)~ 4日(月・祝)の3日間、日本カイロプラクターズ協会(JAC)の年次シンポジウムが開催された。初日は世界カイロプラクティック連合(WFC)の会長でオーストラリア人のデニス・リチャーズDCによる基調講演「カイロプラクティック哲学と最新世界情勢」が行われた。カイロの臨床と教育の中で哲学をどのように学び活用できるかについて、豊富な哲学的知識と経験から興味深い話題が提供された。

同日夕方からは、JAC設立15周年を記念したパーティーが開かれた。リチャーズWFC会長も出席して新旧の会員が交流を深めた。

後半の2日間は臨床セミナーで、ライフ大学のジョン・ダウンズDCによる「スポーツ・カイロプラクティックにおける四肢のアジャストメントとリハビリテーション」が開催された。ダウンズDCは過去にもJACセミナーの講師を務めており、注目が高まるスポーツカイロのセミナーに多くの会員が参加した。
JAC、安全教育を推進

日本カイロプラクターズ協会は、安全な施術が行えるWHO基準カイロプラクターを育成する目的で「安全教育プログラム」を4月から実施する。国民生活センターからの要請を受けての対応だという。実際の教育は東京カレッジオブカイロプラクティック(TCC)に委託する。対象者は、過去にカイロを学びカイロの臨床経験が2年以上の人。

詳細についてのお問い合わせは、TCC(03・3437・6907)まで。


ソウルナイト開催

昨年の暮れも押し詰まった12月29日、カイロプラクティックをこよなく愛する人たちの集いである、恒例のソウルナイトが開かれた。会場は東京・港区の日本赤十字社本社ビルで、日本全国から80人を超える参加者が集まった。

今回のテーマは「Caring Heart―心温まるカイロプラクティックの話」で、7人のスピーカーがそれぞれのカイロに対する熱い思いを語った。

最初のスピーカーは開業5年目の森本晃司氏。純日本育ちのカイロプラクターがブラジルのミッショントリップへ参加。全力で立ち向かったエピソードは、正にトップバッターにふさわしい、その後のスピーカーたちを奮い立たせる話だった。
次に登場した、SLの走る町、静岡・川根本町で父とともに働く奥野雅海さんは、カイロで地元の人々の健康に貢献したいと熱く語った。

ソウルナイトのポスター作成から当日のPC操作まで、ずっと裏方として貢献してきた金木良憲氏には、新婚の記念にと白羽の矢が立っての登場となった。当初は「自分はとても」と辞退も考えたようだが、恩師であり今回のスピーカーの一人である、大陰幸生氏からの勧めと指導によって、無事当人にとっての大役を果たした。今回のポスターも、もちろん彼の作品(写真)である。

赤尾茂博氏は九州は鹿児島から。忘れられない一人の患者のエピソードを話してくれた。赤尾氏と前述の金木氏のスピーチの際には、それぞれの夫人が客席から心配そうに聞き入っていたのがとても印象的だった。

大陰氏、山本元純氏はいわば常連、これまで幾度となく登場している。今回も昨年のパネルディスカッションに続き、それぞれ個性のあふれる話をしてくれた。
締めの岡井健氏は、カイロで健康を維持する患者さんのエピソード。自分でも「いつもの話」と言うが、彼のカイロへのゆるぎない思いは、いつ聞いても治療者に元気とやる気を与えてくれる。

翌日まで仕事という参加者も多かったが、その後はいつもの夜通しの忘年会である。「2014年も頑張ろう!」 との思いを新たに、懇親を深め大いに語り合ったのである。


「充実の2日間」日本カイロプラクティック徒手医学会

昨年11月9日(土)10日(日)の両日、日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC、中川貴雄会長)が、東京・品川区立総合区民会館「きゅりあん」で開催された。基調講演、特別講演、ワークショップ、パネルディスカッション、一般研究発表が行われ、最新の研究内容やユニークな臨床手法が紹介された。100人を超える会員の参加があり、JSCCの存在意義が再確認できた充実の2日間だった。

学術大会を終えて

第15回学術大会大会長 吉岡一貴

第15回学術大会が多くの方々のお力添えにより無事に学術大会が開催できましたこと、まずは心より感謝申し上げます。参加人数その他多くの反省点も含め、大変良い経験をさせていただいたと思っております。

さて、今回たまたま大会長という分不相応な大役を仰せつかったわけですが、学術大会は当然ながら一人の力で開催できるものではありません。勉強熱心な会員の多いJSCCの学術大会たるもの、ありきたりな内容とならず、カイロとの関係が深い最新の知見を取り入れ、広く会員に関心を持ってもらえるもの、などなど、講演の選択だけでもいくつもの高いハードルが待ち構えています。またそれ以外の業務も想像以上に多く、すべてを一人では背負うことなど不可能です。

そうした準備に関しては、今回は幸いにも東京開催ということもあり、経験豊富な実行委員の皆様がご自身の役割をしっかりと自覚され、時に迷走する大会長は叱咤されながら、どうにか開催できたというのが正直なところです。

今回の内容に関しては無力な大会長を補って余りあるほどすべての講演、発表は素晴らしいものでした。一般講演は回を重ねるごとにそのレベルは向上しているように見受けられ、多岐にわたる貴重な研究成果が発表されました。今回のように、今後も継続的に初参加の先生方による発表が増えていくことで、研究のすそ野が広がっていくことを期待します。

ここで個人的な願望を一つ述べさせていただくと、日本の徒手療法界には、言葉は適切ではないかもしれませんが、いわゆる「専門バカ」がもっと増えていいのではないかと思います。

研究発表にも見て取れますが、近年カイロの手技は多様化の一途で、中立な立場に身を置いた場合、「カイロとは?」という問いに対する明確な回答すらもはや容易ではないように思えます。カイロをよりよく理解していただく上で、こうした状況はあまり好ましくはありません。現に利用者から聞こえてくるカイロの印象は、かなりの誤解を含んでいるようです。そしてなによりも私たち自身が、自分自身の役割を他者に伝えるための明瞭な言葉を持ち合わせていないというのは大きな問題です。

以前からこのようなことをなにげなく考えていたのですが、今回ワークショップをお願した吉沢公二DCのご講演の中に、一つのヒントを見つけました。講演中、吉沢DCが時折用いる「機能神経科」という言葉、これがとても強く印象に残ったのです。

ご存知のように、機能神経学的なアプローチはアメリカでは確立された一つの分野となっています。多少の知識があれば「機能神経科」の一語で、その概要は伝わります。一般に向けた平易な言葉での説明も可能でしょう。「機能神経科」、これは大変わかりやすい表現です。

「手技(主義)の分類」。こういったことも、今後は必要なのかもしれません。「科」というのに語弊があるなら、「系」でもいいかと思います。「哲学系」「関節運動学系」「硬膜系」「筋膜系」などなど。完全に区切ることは難しいかもしれませんが、それぞれの特性をもっと明確に打ち出す。そしてそれぞれの中から専門バカが次々と生まれ、研究に打ち込む。

それらの中に、絶対的に正しい方法論などおそらく存在しません。あるとするなら、ある現象に対する相対的な正しさ、優位性といったくらいのことでしょうか。

複雑に絡む要因の中にあるその方法論のもつ優位性とはどういった点なのかを深く掘り下げ、読み解く。それらを積み重ねることでカイロを分類し、専門性を確立しながら既存の医療との差別化、共存を図る。それがカイロをより分かりやすいものへと発展させ、日本の中で専門領域を築き上げる礎となるように思うのです。科学的であろうとするなら、どのみちこうした方向へのシフトは必然です。

どのような手技も、ある特定のパターンにはまれば強いと思うのです。しかし、それは万能ではない。そんなときには、他の選択肢を探る。それは自身の得意とする手技である必要はありません。学会という公式の場でそれぞれの方法論の優位な点を議論し情報を共有することで、全体としてのカイロの社会的な役割はさらに向上するように思えるのです。

大会長の力は小さくとも、多くの方から陰日向にご支援をいただいたお陰で学術大会が開催できたように、皆の力でカイロ界をもっと盛り上げていけるはずです。

次回は今年10月、北陸・金沢で開催されます。一人でも多くの方がこの活動に関心を寄せ、情報を共有し、それぞれの特性を生かして繋がる。近い将来そんな日が来ることを夢想しつつ、学術大会のまとめとさせていただきます。

写真キャプション:
パネルディスカッション。安全な臨床がテーマだった


ロバート・ワッサーマンDCの私のカイロ人生inシンガポール

第3話

シンガポールの困難なカイロ事情

私が初めてシンガポールにやってきて開業した1992年には、この国には78年に開業した、たった一人のカイロプラクターがいただけでした。しかし私が開業してから数カ月後に、香港の実業家が大きくて立派な設備のカイロ・オフィスをつくりました。彼はアメリカ人とオーストラリア人のカイロプラクターと、専門のマネージャーを雇って巨大クリニックがオープンしました。

間もなくこのクリニックはファックスを使った大規模広告キャンペーンを始めました。シンガポールではかつてないやり方です。これで初めてカイロについて知ったシンガポール人も多かったのですが、その中には政府関係者や医療関係者も含まれています。当時は、免許が必要な医療者は、宣伝は一切禁じられていました。そのような状況の中でのクリニックの広告キャンペーンは、カイロのイメージと、その後のカイロ専門職の行く末に対して非常に影響力が持つことになりました。

シンガポール・カイロ協会(CAS)は、当時数人しか会員のいない団体でした。しかし団体として、通常の医療者の広告宣伝規定に従おうと決めました。この時点でこの事業者の広告キャンペーンに異論を唱えたのです。クリニックで働くカイロプラクターと話をしようとしましたが、事業者はそれを阻止し、また協会の会員となることも禁止しました。これがCASの設立以来、初めての主なカイロプラクター間の亀裂でした。現在もシンガポールのカイロプラクターは会員と非会員という2つのグループに分かれています。

それから数年の間に、数人のシンガポール人が海外でカイロ学位を取り、戻ってきました。業界として、ゆっくりと着実な成長をしていきました。帰国した人々はほとんど協会会員となりました。しかし、90年代後半から、シンガポール人以外のカイロプラクターが商業目的でたくさん参入してきて事態が変わります。ショッピングモールでブースをつくり、カイロの進退検査を行って、かなりの治療回数をまとめて売るパッケージ商法を始めたのです。このようなことはシンガポールの医療業界で行われたことはなく、再度医療業界から非難の声が上がりました。

私を知る何人かの整形外科医や内科医は、カイロ業界では何が起こっているのかと電話で私に問い合わせてきました。彼らのところには、サブラクセーションを矯正するために50―100回のカイロ治療が必要と言われた患者たちがセカンドオピニオンを求めて来ていたのです。このような説明は一般の医師にとっては理解不能であり、カイロに対する印象を悪くしていました。そして残念なことに、シンガポールではこういったカイロ事業者が主流になっていったのです。

2005年までに、カイロ業界は大きく成長し、アメリカ人、オーストラリア人など多くの外国人を使って治療院をいくつも展開する事業者も現れました。CASはより多くのカイロプラクターに会員になってもらいたかったのですが、何回か会合をするうちに、モールでのカイロ検査とパッケージ売りなどの関しての考え方の違いが明らかになっていきました。

2006年には、イギリスの開業規定の専門家であるリチャード・ブラウン博士にコンサルタントとなってもらい、ワークショップも開き、その後1年かけて、自主規制のための規約をつくりました。その結果、教育基準は満たしながらも事業基準は満たさないために会員を除名されるカイロプラクターが続出しました。会員よりも非会員のカイロプラクターの方がずっと多いという状況になってしまったのです。

CASは継続して政府にカイロの規制基準づくりを求めてきましたが、それに対する政府の回答は、自主規制ができなければ、CASの入会の義務化はできないし、規制作りの権限も与えないというものでした。しかし非会員に対してCASの規制を守らせる方法はなく、規制を守っている会員は少数派でしかありません。

加えて、政府は外国人カイロプラクターに、ほとんど審査をせずに就労ビザを発行し続けています。カイロは現在まで無規制のままですし、倫理的に問題があり、ほとんど違法ともいえる手法でビジネスをしているカイロプラクターもいるのが現状です。


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