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JAC会長、竹谷内啓介氏インタビュー

日本カイロプラクティック登録機構(JCR)はカイロプラクターの登録制度を始める。今年夏までには登録資格者に通知し、登録を呼びかける。また日本カイロプラクターズ協会(JAC)は「安全教育プログラム」を今年度から実施し、修了後試験に合格した人は登録資格として認定する。JACの新たな取り組みやWFCの動向について、竹谷内啓介会長にお話を伺った。

安全教育プログラムについて

ーーこの4月からJACは東京カレッジオブカイロプラクティックに委託して「安全教育プログラム」を開講しました。これは開業者に対する新たな再教育プログラムなのですか?

2016年には、日本に初めてカイロが川口三郎によって伝えられてから100年を迎えます。100年経ってもまだカイロが法制化されていないというのは世界的に見てとても珍しい国です。多くの国では数十年で何らかの法制化がなされています。こうした環境のために日本には、世界保健機構(WHO)基準に満たない教育を受けて開業している人もたくさんいるので、再教育プログラムが必要だと考えていました。今までJACでは、カイロプラクティック教育評議会(CCE)基準の教育のみを推進してきましたがが、国内の業界をまとめていくために、今まで機会を持たなかった人をWHOのガイドラインのコンバージョン基準に上げることを検討し、新たなカイロ標準化コース(CSC)みたいなものを始めようかと考えていました。ちょうどそのとき、国民生活センター(国セン)から、安全性と広告に関するガイドラインの発行と、安全性を担保するためのプログラムの開講を要請されました。

ーー国センの要請で始めたのですか?

はい。こうしたプログラムを行う際には、JACが独自で行う形ではなく、健康被害が増えている状況の中で国センからの要請を受けた形で開講したことをぜひ明記してくださいと言われました。

国センの報告書(「手技による医業類似行為の危害―整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症例もー」、2012年発行)についてはカイロジャーナル(第76号、2013年2月発行)でも指摘していたように、医業類似行為の中でも有資格者と無資格者による施術行為の分類について不明確な部分があったり、カイロプラクティックという名称が使用されていても、アジャストを中心とした施術なのか、単に屋号にカイロの名称を使用するだけでアジャスト行為を用いない施術なのか不明な点もあります。しかし業界の発展を望むのであれば、こうした報告書の問題点を把握しながら、我々自身で自主規制を普及していく必要があります。これは業界全体として取り組まなければならない問題です。国センは今後もっと深くカイロに関する調査研究をやってほしいとお願いしていこうと考えています。一回の調査報告で終わりにならないように継続的に働きかけて行きたいです。

ーー今回の安全教育プログラムとCSCとの違いは何ですか?

内容的に大きな違いはテクニックは含まれないことです。基礎医学教育とリスクマネージメントを重視した内容です。また、かつてのCSCは開始後または終了後にJACに承認申請してきたので、なかなか中身を精査することができませんでした。今回はより客観性を保てるように、教育過程修了後に日本カイロプラクティック登録機構(JCR)が主宰する国際カイロプラクティック試験委員会(IBCE)の試験があり、それに合格することで初めてWHO基準であることが認められます。

ーー安全教育プログラムは現在TCCが行っていますが、他の学校も始められるのですか?

WHOのガイドラインを見ればわかりますが、CCEのアクレディテーションを受けた学校でなければ行えません。ですから少なくともCCE基準の教育機関と提携しなければなりません。

ーーかつて複数のCSCが行われていた時代にもCSC基準校との提携は必要でしたが、今回は(IBCE)試験という客観評価が入ります。そうなると個人的に勉強した人は試験だけ受けるという選択肢はないのですか。

そういうオプションは今のところはないです。ただそういうことも考えていかなければという意見は役員間でも出ています。将来的に業界の団体間で決めて行かなくてはならないでしょう。また、厚生労働省が何か規制などを決める段階になれば、あり得ると思います。

JACとしては今年中に、まずWHOガイドラインを遵守することを謳っている団体を集めて話し合いをしていきたいと思っています。

日本カイロプラクティック機構(JCR)への登録について。

ーーIBCEの試験合格者は、JCRへ登録されるとのことですが、DC、CSC修了者、TCC(前RMIT大学日本校)卒業生、安全教育プログラム修了者はすべて同じ扱いなんですか。

以前JCRではフルプログラム卒業生とCSC卒業生を分けて仮登録していましたが、今は一律にしています。日本は法律がなくて、例えばレントゲンが撮れるなどの診断権もないため、区切ることにあまり意味はないと判断しました。法制化された国々、例えばアメリカであれば開業資格を取得するためにはナショナルボードの試験を合格しなければなりません。IBCEを開業資格に該当する登録試験だと考えていただければと思います。

ーーJCRへの登録は自己申請なのですか。

今登録資格のある人は約850人います。これからその方々に説明文書と登録申請書を送るという段階です。全員に送られるのに数カ月かかると思います。登録費用に1万円かかりますが、その後費用は発生しません。登録者名簿は、WHO基準カイロプラクターのリストとして毎年厚労省にJCRから提出する予定です。

ーーでは登録される資格はあるのに、申請書を提出しないDCなども出てくるかもしれませんね。

その場合は厚労省に出す名簿には含まれないことになります。登録を自分でした人だけが含まれることになります。

ーー登録がスムーズにされるのと、そうでないのとでは今後の影響力も違うと思いますが、TCC卒業生やJAC会員の方以外にも登録してもらうことが大事になってきますね。

少なくともJACの承認を受けたプログラムを受けた人には登録してほしいと思っています。どこの国でも登録からはじまって、徐々に段階を追って制度を整えていっているのですから。

ーー例えばDCがノンDCへのテクニックセミナーをした場合、その登録を抹消されるという可能性はあるのですか。

法律に違反した人は名簿から削除することもあり得ますが、その他の理由で登録抹消されることはないと思います。JCRの目的がWHO基準カイロプラクターの名簿作成と名簿の一般公開のため、倫理規定遵守には言及しません。登録名簿の作成というのは地道な作業だと思います。しかし公平で客観的な登録制度があれば、カイロプラクターの全体像が見えてきて政府への働きかけも出来やすくなると思います。

WFCの動向

ーーWFCの今ホットな話題は何でしょう?

WHOとNGO関係を延長し、つながりが一層深くなっていることでしょうか。WFC・WHOフェローシップ・プログラムとして、WFCがスポンサーになりカイロプラクターをWHOで研修できる制度があります。また、年1回開催される世界保健総会にWFCが派遣団を派遣し、ロビー活動をしてカイロの認知度、存在感を高める機会もつくっています。

ーーWFCは日本に何か要望していますか?

WFCは基本的に各国代表団体に何かを要望する団体ではありません。要請があれば動くけれども、なければ意思に任せ、尊重するという立場です。

過去の日本では、WFCからの提案により業界が動いたことで混乱を招いた時期もありました。、私は去年の南アフリカでの役員会の際にに、今後は日本の業界についてJACはWFCと密に連絡するので、JACから要請があったときに協力してほしいことを伝え、理解してもらいました。今後はJACの活動を尊重し、要請があれば動くけれども、WFC側からの要請や介入はしないことを約束しました。

ーー過去の介入とは具体的にどんなことですか?

日本カイロプラクティック評議会(CCJ)のWFCへの加盟のときには、二つのDCの団体を統合してCCJをつくれという指導がありました。またWFC元会長が国内のある団体の顧問を務めていたために、日本の業界の状態が正確にWFC役員会へ伝わらなかった時期が過去にありました。

世界大会とオリンピック

ーー2019年WFC世界大会が東京で開催されることが決まったそうですね。

1997年の東京大会に出席した経験のあるカイロプラクターも徐々に少なくなっています。20年のオリンピック開催も決まり、1年前にカイロ界がまとまれることをやりたいという希望もあります。ただ集まって終わるのではなく、何らかの結果を残すように持っていきたいと思います。

ーーJACとして、19年の世界大会、20年のオリンピックに向けて何か掲げていることはありますか。

最終的には、制度化に向けて働きかけていきたいです。即法制化はムリですから、まず登録制度を確立して、厚労省のサポートを得られる形に持って行けたらと思います。また文部科学省認可の大学教育もスタートしてほしいです。文科省に聞くと、教育の自由だから大学教育はOKということですが、実際の大学は、厚労省との軋轢を危惧するなど、なかなか難しいものがあります。大学教育が実施になれば、WHO基準との整合性を考えながら世界的なモデルになるカイロプラクティック教育を行えればと考えています。

制度化と大学教育は、カイロ発展の2つの大きな柱ですね。世界大会とオリンピックがその起爆剤とするためには日本の他団体や個人がこれまで行ってきたカイロ発展への努力も等しく評価、尊重する制度作りを検討いただければと思います、本日はお忙しいところありがとうございました。


日本カイロプラクティック徒手医学会・第16回学術大会長あいさつ

高橋克典大会長
高橋克典大会長

大会長 高橋克典
(カイロプラクティック全尽堂院長)

心に届く“治癒”を探して

今年の秋、10月25、26日の両日、石川県金沢市の金沢歌劇座を会場として、日本カイロプラクティック徒手医学会(JSCC)第16回学術大会が開催されます。

本学会では、1999年以来毎年学術大会を開催し、早いもので今年で第16回目を迎えます。97年に世界カイロ連合(WFC)の世界大会が東京で開催されたことは皆様の記憶に残っていると思いますが、それがきっかけとなり我が国でもカイロの法制化の機運が高まり、本学会の設立という運びになったと思います。

 

そんな伝統ある学会の大会長を、この度拝命したことは私にとって大変名誉なことであり、その重責で身の引き締まる思いであります。私を支え協力してくれるスタッフやご指導いただける諸先生方、そして多くの皆様方のお蔭で、準備も順調に進んでおります。

今回のテーマは「イネイト・インテリジェンス~治癒のメカニズムを科学する~」としました。日本語では「自然良能」と訳されていますが、我々には生まれながらに自然に良くする能力が備わっているということです。カイロを始めとした徒手医学では、身体に様々な刺激を入力することによって、イネイト・インテリジェンスを賦活し、治癒へと導いていると思われます。

心身ともに良好

治癒の「治」は身体症状に対する治療であり、「癒」は病だれに心を諭すと書きます。すなわち治癒とは心身ともに良好な状態になることです。しかし日頃の臨床では、身体症状の改善に捕われて、中々心の癒しということまで対応していないのではないでしょうか。それでは本当の治癒とは言えません。

基調講演には富山大学名誉教授・温泉療法医の鏡森定信先生をお招きし、「ドイツのクナイプ自然療法にみる健康法」というテーマでご講演いただきます。鏡森先生は以前、日本テレビの「世界一受けたい授業」に出演され、お風呂の効能についてお話しされています。とても気さくでお話上手な先生で、カイロを始めとした自然療法に対して多くの知識を持っておられます。また公害病のイタイイタイ病資料館の館長もされておられ、講演ではイタイイタイ病についてもご紹介いただける予定になっています。

特別講演ではゆあさメンタルクリニック院長の湯浅素広先生に、「トラウマの解放から前世療法まで~潜在意識への催眠療法によるアプローチ~」というテーマでご講演いただきます。湯浅先生は金沢大学附属病院で臨床に携わっておられた時薬物療法に限界を感じ、開業後は薬物を使わずイメージ療法や前世療法、インナーチャイルド療法など自然療法で臨床されています。

ワークショップⅠでは伊藤カイロ・オフィス院長の伊藤彰洋DCに「椎間孔内神経根障害に対する手技アプローチ」と題してご講演いただきます。伊藤先生は近年機能神経学のセミナーをされておられますので、お顔馴染みの皆様も多くおられると思います。

理論構築目指す

ワークショップⅡでは幸田歯科医院院長の幸田秀樹先生に「姿勢制御における顎口腔系の役割」と題してご講演いただきます。幸田先生は歯科医でありながらもオステオパシーにも精通され、大変面白いお話をお聞きできるのではないかと楽しみです。

また特別企画としまして、「線維筋痛症のアプローチ」をテーマにパネルディスカッションも開催します。北陸線維筋痛症患者の会「虹の架橋」とのコラボレーションで、カイロ側のパネラーとして大場弘DCが講演されます。

その他、一般講演として9名の演者によるプレゼンテーションがあります。

医療の目的である患者を健康にする、治癒へと導く、そのメカニズムを科学的に解明するのが学会の使命であると思います。我々、カイロを始めとした経験医学、伝統医学は非科学的と言われていますが、学会の場を通じて理論の構築を目指していきたいと思います。また本会はボーダレスな会ですので、お互いの垣根を越えて素晴らしい先生方と気軽に懇親できるのも学会の魅力の一つです。

開催地、金沢は加賀百万石の城下町で、年間を通じてたくさんの観光客が訪れ賑わっています。会場の金沢歌劇座は町の中心部にあり、名勝の金沢城や兼六園へも徒歩7分、金沢最大の繁華街の香林坊や片町へも徒歩7分の好立地にあります。学会参加だけでなく時間に余裕をもってお越しいただき観光もされてはいかがでしょうか?

このように盛りだくさんの内容で皆様方にも満足いただける充実の2日間となるものと思います。

是非、一人でも多くの皆様に参加いただきますようにお願い申し上げます。

金沢城石川門
JSCC第16回学術大会
日時:10月25日(土)、26日(日)
場所:金沢歌劇座(石川県金沢市)
詳しくは同封の案内およびJSCCホームページ(http://www.jsccnet.org/)をご覧ください。

カイロプラクターからノンカイロプラクターへの教育について

WFC会長・竹谷内啓介氏に聞く

明白なスラストを問題視・患者の安全が最重要

――カイロプラクターがノン・カイロプラクター(基準のカイロ教育を履修していない人)にカイロを教えてはならないというWFCの提言があります。JACは今後もWFCに対しノンカイロプラクターへの教育阻止を要請しますか?

カイロ・セミナーはたくさん開催されており、日本人同士が教えるのは好ましくないし、容認はしないですが、法律がないので禁止することは不可能です。しかし、海外のカイロプラクターが教えるセミナーは行わないようお願いし、返答がない場合はWFCに連絡し対応してもらうこともあります。なぜならば、米国など法制化された国のカイロプラクターは免許登録されており、自国ではノンカイロプラクターに教育したら免許剥奪などの罰則があるのに、それが海外では許されるという論理は通らないと考えるからです。

基本的にはスラスト・テクニックの指導が対象でしょうか。

明らかなスラストを特に問題視します。モービリゼーションは理学療法や柔道整復などでも類似の技術があるので、判別しにくいということもあります。

――結局、海外講師によるスラスト系テクニック・セミナーを問題視するということでしょうか? 器具を使ったテクニックについてはどう解釈していますか?

例えばアクチベーターは、法制化された国以外ではカイロではない治療家にも教えてもいますし、その辺は簡単に答えられません。

――今の日本の現状は、学びたい人がいて教えたい人がいます。学んで使えない人もたくさんいますが、自分のものとして使えるようになる人もいます。なぜ阻止することにそれほど大きな力を入れるのしょうか?

阻止ではなく、カイロを受ける人の安全を担保するのが重要ということです。JACの役員でなくてはなかなか実感しないことかもしれませんが、一般の人やマスコミからカイロの健康被害に関しての問い合わせが結構あります。問題のあった施術が海外講師のセミナーで学んだものだったかはわかりませんけが、施術で悪くなったというクレームはよく来るんです。

それから警察からの問い合わせもあります。骨折させられた、わいせつ行為があったとか。そういうときのスタンスとしても、できるだけ業界として防ぐ努力をしていることを伝えなければいけません。海外のカイロプラクターは、登録制の免許があるので、違反のリスクを負ってまで来る必要があるかどうかと考えると、彼らへの働きかけは効果的です。セミナーを受けたい人がたくさんいるのはわかりますが、有効性よりもまず語られるべきは安全性だということです。

――米国を見れば、免許を持ってるのに問題は起きています。基準基準のカイロ教育を受けていない人がすべて問題を起こしてるという前提は成り立たないのでは?

米国では問題を起こしたカイロプラクターをデータベースで公開しているので名前が知られてしまいます。また開業免許停止などの罰則もあります。日本ではもちろんそれはないですが、将来的に法的な整備がされていくとしたら、そういったことも可能になっていくと思います。

法制化された国、例えば米国では州の登録機関があり、WFC加盟団体が安全性担保のために動く必要性はあまりありません。しかしそうではない国、例えばスペイン、台湾、シンガポールなどではWFC代表団体が安全性担保のために積極的に動いており、WFCへの援助要請もしています。

――本誌は、カイロ・セミナーへの対応に、メディア及び主催者として多大な関心を持っています。貴重な見解をお示しいただきありがとうございました。


アトラスオーソゴナル・カイロプラクティック勉強会へ向けて㊤

アトラスオーゴソナル・カイロプラクティック(AO)創始者のロイ・スウェットD.C.。井上裕之D.C.が師事し、日本にAOを伝えるように井上D.C.を励ましたことが、今回の勉強会開催につながった。

井上裕之D.C.

井上裕之D.C.

アトラスオーソゴナル・カイロプラクティック(AO)の創始者のロイ・スウェットDCから学び、アトラス・オーソゴニスト(BCAO)として都内で開業している井上裕之DCが、今秋からAO勉強会を開催する。

井上DCは2年以上前から、テキストの翻訳や日本製テーブルの製作を進め、一歩ずつ勉強会準備を進めていた。テキストは『アトラスオーソゴナル・カイロプラクティック』ロイ・スウェット/マシュー・スウェット共著、井上裕之翻訳、科学新聞社刊)は発行されている。テーブルは、レイアンドカンパニーがスウェットDCと井上DCのディレクションのもと、米国製品以上の品質を目指し、商品化の最終段階に入っている。井上DC自身も治療室とセミナールームを備えた新居が整ったところだ。

勉強会のビジョンとAOの特徴をお伺いするために、5月末に三鷹の治療院を訪ねた。井上DCは今後、三鷹の治療院と八王子の自宅の両方で治療を行い、勉強会は自宅で開催する予定だという。

 

――一言で言うと、どのような勉強会を目指していますか?

ロイがやってきたAOをそのまま日本で広めたいと思っています。そのためにテキストも翻訳しました。レントゲンの撮影など、アメリカのカイロプラクターにできて日本では出来ないといった課題はありますが、出来る限り正規のAO治療を普及したいと考えています。

自分自身は、渡米するときからよいものを日本に伝えたいと思っていました。当時は何がよいものなのか分からなかったのですけど、今はそれができるので。この活動自体が、ロイや今までお世話になった方々への恩返しになると思っています。

――テーブルまでつくるというこだわりの理由は何でしょう?

日本でいくら教育に力を入れたとしても、テーブルがなければ治療自体も上手く伝わりません。AOテーブルは医療品なので、日本では基本的に医師でなければ輸入して買うことができません。橋の真ん中を堂々と歩いて、AOを広めたいと思ったので、正規の方法で日本での製作を進めました。日米では部屋の大きさも違うし、日本で広めるには、違う規格のものが必要だとも思います。

――井上先生がBCAOになったきっかけは何だったのですか?

せっかくパーマー大学のあるダベンポートまで来たのだからといろいろなテクニックを受けていました。スポーツをやっていたので、ガンステッドを学ぼうかと最初は思っていたし、上部頸椎は日本では前例も無く出来ないと思っていました。

ところが1学期にインターンに勧められてAOを受けたら、子供のときに交通事故に遭ってから持っていた頭痛と、膜が張ったような感じが抜けたんです。調整後レッグチェックする間に、自分の体がテーブルに沈んでいくような感覚を今でも覚えています。すごいテクニックに会っちゃったなという感じでした。

5学期からテクニックの選択科目が取れるので、グロスティック、ヌーカー、アドバンスアッパーサービカルと、取れる上部頸椎の科目は全部受講しました。でもその結果やっぱり自分にはAOが一番でした。卒業後ロイのところで学び、日本にAOを伝えるようにと励まされました。

――ご自身はAO単独で治療を組み立てているのですか?

 基本はAOで治療しています。例えばバレエで足首を壊した人でも、先ずは頚の治療から始めます。アトラスだけで症状はよくなっていきますが、それでも必要ならば別な部位も診ていきます。

――BCAOを取った人は、AO中心の治療をする方がほとんどですか? AOを学んで、ちょっとそれを取り入れるという使い方もできるのでしょうか?

AOにSOTやアクチベーターを組み入れた治療をしている人がアメリカでは結構いますし、セミナーにもいろいろなカイロプラクターが来ます。ロイのすばらしいところは、上部頸椎だけにとらわれないところです。

AOの基のテクニックはグロスティックです。ロイは、グロスティックDCから直接教わり、選ばれた五人のインストラクターのひとりとして教えていました。しかしテクニックに個人差があり過ぎたり、治療で身体を壊すカイロプラクターもいたりで、多くの人に普及できるテクニックの開発を目指し、装置を発明したのです。

AOとは何かといったら、それは上部頸椎の理解です。バイオメカニクスを知ることが大事で、AOを学ぶことでAO以外のアプローチもかなり変わると思います。

――どのぐらいの期間で身に付けられるものでしょうか?

アメリカのAOの教育システムは、ベーシックのコースは8~10日のセミナーで修了します。パーマー大学の場合はその後試験に合格すれば、学生クリニックで使えます。現実には、1クール受けただけで臨床に入るのは難しく、アメリカ人でも繰り返しセミナーを受けてようやくクリニックで使えるようになります。自分としてはコンスタントに勉強会を続けていって、繰り返し受講してもらい、自分のものにしていってほしいと思います。1クールではとうてい身に付かないものですから。しかしAOの分析方法は身につけてしまえば一生ものです。

――どの程度カイロの勉強をしている人が受講対象者になりますか?

カイロの基礎を学んだ人が対象です。

パーマー大で上部頚椎テクニックの選択科目が受けられるのは、全10学期間あるうちの5学期からです。ある程度カイロの基礎を知らないとわからないと思うので、2年間以上のカイロ教育を受けていることが一つの目安ではないかと思っています。あとは個別に面談して決める必要があるかと思います。

――AOはどういうカイロプラクターを目指す人に向いていると思いますか?

AOやグロスティックは、レントゲン分析という裏付けのある治療です、そういった科学的実績に基づいた治療をしたい、という人に向いているのではないかと思います。

カイロの三原則である、サイエンス、アート、フィロソフィーは、その全てを掘り下げることで器が広がると思います。AOでは、レントゲン分析に重点をおいて、これを基に治療し、治療前後の画像をさらに比較分析していきます。

もっとも日本では、現実的に治療後のレントゲンを撮るのは難しいので、私はほとんど撮りません。その代わりにレッグチェックやスキャニング、患者の反応をみて判断しています。


 

(次号に続く)
アトラスオーソゴナル・カイロプラクティック勉強会へ向けて㊦


セミナー
アトラスオーソゴニスト育成セミナー スタート2014.11.09


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筋膜治療の最前線学べるセミナー開催

 

マイケル・シュナイダーD.C.、Ph.D.

米国のカイロプラクターとして、国立衛生研究所(NIH)、国立補完代替医療センター(NCCAM)などから研究助成を受けて軟部組織に関する多くの臨床研究を行ってきたマイケル・シュナイダーDCが7月に、江崎器械主催のセミナーのため来日する。軟部組織関連の研究、教育および臨床で最前線に立つシュナイダーDCにお話をうかがった。

Drジェイコブと意気投合

――先生が日本でセミナーを開催するきっかけとなったのは、Drジェイコブの紹介とお聞きしました。Drジェイコブは、カイロプラクターとして初めてマッケンジー法を学び、アメリカのカイロプラクターにその診断と治療を普及してきた方ですが、お2人は教育や臨床に対して共通の考えを持っていらっしゃるのでしょうか?

私とDrジェイコブとは15年以上のつきあいがあります。私たちの出会いはマッケンジー・セミナーで、すぐに意気投合しました。物事を批判的に考え、多くの質問をすることによってより深く理解しようとするのが私たちの共通点でした。2人ともマッケンジー法が生体力学と臨床的推論に基づいているという点に惹かれました。そして私たちは筋骨格系の痛みの治療はもっと単純明快にできるものであり、多くの指導者が必要以上に物事を複雑にしていると強く感じていました。

日本に関して、何か特別に興味を持っていることはありますか。日本の医療や徒手療法に関してはどうでしょうか。

Drジェイコブからは、日本の治療家は、筋膜や徒手療法の最新の科学的知見に興味を持っていると聞きました。私は1990年代から筋膜と線維筋痛症の科学文献を詳細に追っています。ですからこれらの情報を日本の治療家とカイロプラクターと共有し、役立つことができるのではないかと思っています。

私には日本人妻を持つ友人が2人いて、何度も日本を訪れている彼らから、日本の自然の美しさや、人々が親切であること、興味深い歴史や文化を持っていることを聞いています。私自身は、高校時代に講道館柔道を学び、茶帯を締めました。こんなこともあって、今回の来日では、妻とともに何日間か日本を旅行する予定にしており、とても楽しみにしています。

筋膜は「柔らかい骨格」

――先生は、筋膜に関する研究論文を複数発表しています。筋膜に特別な興味を持っている理由は何でしょうか。

私は、カイロ大学を82年に卒業しました。そのときには筋膜に関する知識はあまりありませんでした。実技では脊椎マニピュレーションを重視していました。その後間もなく、自分のカイロ実技は、筋骨格の痛みの中の骨格に焦点を当てており筋肉は無視している、ということに気づきました。これは筋膜と腱に障害が起こることが多い運動外傷の治療には不適切ではないかと思うようになりました。私は幸運にも、筋膜痛とトリガーポイントに関する初の本を書いたジャネット・トラベルに会う機会がありました。Drトラベルはすばらしい教師であり、研究者であり、医師で、できる限り筋膜の勉強をしてカイロ界にもその重要性を紹介するようにと私を鼓舞しました。

その後私はほとんど取り憑かれたように、ニモのレセプター・トーナス法、プルーデンのマイオセラピー、ポスト・アイソメトリック・リラクセーション、筋エネルギー・テクニック、バーンズの筋膜リリース、アクティブ・リリース・テクニック、グラストン・テクニック、膜マニピュレーションなど、様々な筋筋膜療法を学びました。これらを学んだ後、私はこれらを分類し、筋筋膜に関するシ系統的レビュー論文とケースレポートを発表しました。現在も、カイロプラクター、マッサージ師、オステオパス、アスレチック・トレーナー、理学療法士に徒手療法を教えています。

――筋膜に関して特に重要なことは何ですか。なぜ筋膜を治療するのか、何がその適応なのでしょうか。

筋膜は、線維性結合組織で、内臓や筋肉を包んでいます。身体全体に広がっており、「柔らかい骨格」のような存在です。多くの治療家やカイロプラクターは、関節マニピュレーションが身体の動きを取り戻すために最も重要な方法と考えていますが、関節や骨が受動的な組織であるのに対し、筋肉は骨を動かすものです。筋膜に対する治療は多くの場合痛みを取り除き関節の動きを回復させます。

関節と筋膜の制限のどちらがより重要なのか、という議論があります。これに対して私はシンプルな質問を返したいと思います。「光は波動ですか、粒子ですか?」 もちろん「光は波動であり粒子である」が正解です。筋骨格系の症状も同じです。関節と筋膜の障害が組み合わさっており、単独で存在するのではありません。

筋膜治療の適応は、筋肉、腱、結合組織である膜の局所痛と触知できる組織の変化です。触診には訓練が必要ですが、経験を積んだ治療家なら筋膜の制限のある部位を特定し、ストレッチや圧迫などの徒手技術でそれをリリースすることができます。関節制限があり、マニピュレーションが必要な場合でも、筋膜の治療を先に行うことにより少ない力でマニピュレーションを行うことが可能になります。

線維筋痛症の新たな発見

――先生は線維筋痛症に関する論文も書かれています。この病気の特徴や徒手療法でできることなどを教えていただけますか。

線維筋痛症(FM)はとても興味深い病態です。疾患ではなく症候群として分類されています。その理由はFMの原因や、病原因子が不明だからです。FMを特定する3つの特徴があります。

  1. ウエストより上と下、両側に広がる慢性的な痛みがあること、
  2. その他の心理社会的、体性的症状が群発的にあること、
  3. 他にこれらの症状を説明できる医学的状況がないこと、

です。最新の研究からは、線維筋痛症という名前にもかかわらず、FMが筋膜の問題ではないことが示唆されており、FMは中枢神経が感覚刺激(侵害受容)を処理する際の問題であると考える研究者が多数を占めています。

患者によっては遺伝的にFMのような慢性痛や中枢神経過敏症候群になりやすい人がおり、身体的または精神的トラウマにさらされた後に発現するようです。FMは中枢神経過敏症候群ですので、治療は末梢の筋膜に対する強い圧迫やストレッチではありません。これらは症状を悪化させます。ずっと穏やかな方法の徒手療法と運動療法が痛みを和らげ、気分をよくさせます。瞑想や心理療法も役立ちます。

今度のセミナーは筋膜治療の最前線が学べる貴重な機会ですね。初の日本セミナーを楽しみにしております。

マイケル・シュナイダー先生のセミナーを開催するに当たって

江崎器械株式会社
代表取締役 江崎 健太郎

今回、筋膜・線維筋痛症の世界的権威であるシュナイダー先生をお招きしてセミナーを開催いたします。本セミナーは、日頃から大変お世話になっているジェイコブ先生への私の質問「最近、筋・筋膜性疼痛や線維筋痛症という言葉をよく耳にするのですが、その原因、そして治療法にはどのようなものが?そして最新の情報は?」がきっかけになりました。先生は、今回の来日で日本の治療家が情報を求めていると強く感じたと言われ、先生の知り合いで米国での筋膜と線維筋痛症研究の第一人者シュナイダー先生のセミナーをご提案いただきました。

シュナイダー先生に日本の手技治療やカイロプラクティックの現状、最新の研究や世界の実情に触れる機会も少ないことを訴え、「最新の研究と臨床に応用するすべを伝えてほしい」とお願いしました。

シュナイダー先生は多忙にも関わらず、夏休みを利用して日本でのセミナーを快諾してくださいました。セミナーの開催には「何のメリットが?」とのご心配もいただいておりますが、私たちは治療家の皆さん同様「患者様に健康になっていただきたい、健康を伝えたい」と思っています。シュナイダー先生が来日されることで、業界に良い影響が必ずあると私どもは考えました。業界の発展なくして私たちの発展もあり得ないからです。

最先端の研究成果に触れるチャンスです。ぜひ、私たちの思いをご理解いただきセミナーに足を運んでいただければ幸いです。

 


 
 
 
 

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