ケリーセミナーに参加して《関節バランシング・下半身編 (JBLQ)》カイロプラクティックジャーナル

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ケリーセミナーに参加して《関節バランシング・下半身編 (JBLQ)》

ケリーメソッドの本質は演繹法、テクニックは患者と対話する道具
web先行記事

ケリーダンブロジオ

人間は忘れる動物である。エビングハウスが忘却曲線でそれを示した。それによれば、覚えたことの74%が次の日にはどこかに行っている。暗記は重要な問題だ。楽に手に入れることが出来ないから「学問に王道なし」と言うのであろう。脳の記憶に関する海馬がそれを一時的に記憶したとしても、その情報が長期記憶として保存されなければ一瞬で消える。色々な方法論があるが、記憶を高める方法は3つ、「反復し何度もそれに接すること」「意味を理解し自分の血肉にすること」「継続すること」である。

ケリーは長年に渡り教育者としてセミナーを行ってきた。また臨床家としての顔も持つ彼は受講生にテクニックを教えるだけでなく、それが臨床の中で使える状態になる様に工夫を凝らして教えている。習ったことを反復して練習するのは受講生の務めである。しかし理解度を上げるのは講師の力量に比例する。いかに腑に落ちる講義をするのか? それは分かり易く本質を伝えることでもある。では本質とはいったい何であろう?

本質とは共通項を探り出すことで見えてくるのではないだろうか? 例えば英語と日本語、両者は全く違う言語であり多くの日本人学習者を悩ませる教科の一つである。どちらにも共通するのは文法である。お互いに鏡のような文構造は違いを際立たせる。

詳しく述べると「トムがボールをけった。Tom kicks the ball.」これを分析してみる。

「トムが」「ボールを」「けった」と3つに分ける。そして順番を入れ替えることで6つのパターンが出来る。トムがボールをけった。トムがけったボールを。けったトムがボールを。けったボールをトムが。ボールをトムがけった。ボールをけったトムが。どのパターンでも意味は通じる。一方英語では、The ball kicks Tom.「ボールがトムをけった」となり、全く意味が違ってくる。英語では語順によって「てにをは」の働きをするのである。

日本語では、「てにをは」に代表される助詞の働きにより単語をデタラメに置いても意味は通じるのである。これらから導き出される共通項は、英語は語順がすべてであり、それが出来ていなければ通じないということになる。つまり日本語の語順とは全く違うということである。日本人が英語習得を目指すのであれば、英語特有の語順に着目することが助けになるであろう。また外国人が日本語を習得するには助詞の理解と運用がポイントになる。言語の習得に関しての「本質」を文法から導くことが出来た。

関節バランシング・下半身編 (JBLQ)3/18-20の様子

翻って、オステオパシーではどうであろうか。臨床家はいつも感じていると思うが、患者の状態は一様ではないということである。様々な症状を抱えて患者はやって来る。ケリーもまた臨床家である。彼も日々の臨床においてそういった問題に対して解決策を処方しているのである。そうした彼の方法論を惜しげもなく伝えてくれるのが、ケリーセミナーの醍醐味だ。

彼は言う。「患者の状態に応じてテクニックはいかようにも変えられる」と。それには原理原則がしっかり頭に入っていなければならない。教科書通りに習ってもそんな患者は来ないし、臨機応変に対応出来ないのである。痛みにより横になれない、座れない患者に施すテクニックにマニュアルは無い。例えば仙骨捻転変位の斜軸を下に出来ない場合にはお手上げになる。

関節バランシング(JB :Joint Balancing) テクニックの文法は生理学に起因する。等尺性収縮後リラックスと相互抑制である。そしてバイオメカニクスによる決められた動きのパターンである。この本質の理解こそが記憶の定着を容易にする。ケリーは本質を教えてくれた。後はそれを練習するだけだ。「習うより慣れよ」と言うが、正しくは「慣れるまで習え」である。同時通訳の神様と言われた国広正雄氏が提唱した。英語習得においては何百回と音読することがそれを可能にする。運動記憶を通じ肉体に内在化させる。ケリーメソッドを習得するにも同じことである。

彼は、「とりあえずはバイオメカニクスを忘れて臨床に向かうことが大事である」と言う。何百回と患者を治療してからバイオメカニクスを学べば良いと。構造障害(バイオメカニクス)の変位ばかりに気を取られていては治療どころの話でなくなる。教科書を捨て臨床の扉を開けることが肝要であろう。

ケリーと通訳の櫻井D.C.

オステオパシーは科学である。また科学には演繹法と帰納法という2つの検証方法がある。先に帰納法により英語を分析し本質を論じた。オステオパシーにおいては過去から現在にいたるまでスティルを始めサザーランド、ジョーンズ、フレッドミッチェルなど彼らが開発したテクニックは帰納法によるものだ。演繹的に普遍的法則から作り上げたものは何一つ無い。これは方法論の違いであるから、客観的事実を積み上げていく過程によって法則を導き出す帰納法が多くなってしまうのであろう。演繹法、帰納法どちらも科学的思考を担保する思考法である。

しかし、ケリーの説く本質は演繹法である。未知の物にも普遍的法則を使い対処できるのである。言い換えれば、対処法が分からない患者に対して治療を自由自在に作り出せるのである。これがケリーの教えるオステオパシーの本質である。こういった本質を学べるチャンスは残りわずかである。10月のセミナーをもって関節バランシング(JB :Joint Balancing) テクニックは終了するから。関節、筋骨格系をコントロールするには最高のテクニックである。

治療に確信を得たい人、治療の幅を広げたい人に強くお勧めする。何はともあれ彼のテクニックは、立って良し、寝て良し、座って良しなのである。これほどまでの便利なツールは無い。英語はコミュニケーションを取るための道具の一つである。関節バランシング(JB :Joint Balancing)テクニックも同じく肉体を通じて患者と対話する道具である。しかし道具は道具。使いこなすには、たゆまぬ研鑽が必要不可欠である。改めてそう思わせてくれる良いセミナーであった。

山﨑 徹(やまざき・とおる)
はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)大阪支部長
塩川カイロプラクティックスクールガンステッド学部卒

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