代替療法の転換点 「増田裕という人物」カイロプラクティックジャーナル

  代替療法の転換点 「増田裕という人物」

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代替療法の転換点 「増田裕という人物」

「なぜ」の視点が主眼
教えずに教える手腕に感服
山﨑徹
カイロジャーナル89号 (2017.6.19発行)より

懐かしい思い出

前号での安保徹氏の訃報記事の中、本紙発行人・斉藤信次社長(以下斉藤氏)が増田裕DCのことに触れていた。上京した折、斉藤氏との宴席で増田DCの話題で大いに盛り上がった。懐かしい思い出とともに増田DCのことを伝えたい、いや伝えなければという衝動に駆られた。

2001年ごろであったと思うが、友人に誘われ面白いと評判の増田DCのゼミに参加した。当時、彼の連載がカイロジャーナルでもひときわ目を引く記事であったので興味も大きかった。今までにはないセミナーという触れ込みもあり、期待して席に着いた。辺りを見回すと何やらワイシャツをズボンから出しているだらしない人がいた。

開始時間が近づき講師の増田DCを待つ。するとその変なおじさんが演壇に向かって歩いていくではないか。新聞記事での巧みな文体と着眼点に、勝手にシャーロック・ホームズのようなイメージを持っていたのだが、実際は横溝正史の金田一耕助のような風貌であった。しかしながらどちらも小説の中では名探偵であり、また増田DCにも彼らに見劣りしないものを感じることになるのだが。

今までにないセミナー

いったいどんな内容なのだろうかと期待していると、細胞の模式図と静止膜電位の図を書き始め、講義がスタートした。しかし待てど暮らせどカイロプラクティックのカの字も無く一日が神経生理学の講義で終了した。カイロと神経学が臨床でどのようにつながっているのかを聞きたいのに、こちらの思惑とは真逆であった。

増田DCからテクニック的なものを習ったことはほとんどない。教えてくれなかったというのもあるが、セミナーコンセプトでもあった「How toからWhy toへ」という試みも大きく影響しているようだった。従来のセミナーは、治療方法を講師が教え、生徒が学ぶというオーソドックスなものであった。増田DCはそれを変えた。「なぜ?」をセミナーの目的に据えた。なぜそのテクニックを使うの? 何のために? 必要性はあるのか? 他の方法との違いは? 等々。矢継ぎ早に質問が飛んできた。当時は上部頸椎カイロにのめり込んでいたので、特異的なアジャストメントを行う上部頸椎派は格好の餌食。セミナーのたびに論争をしては叩きのめされた。

しかしながら、こういった新しい視点でのセミナーこそが代替療法の転換点だったように感じる。無用の用とは言い得て妙なり。今では考えられないことだが、すぐには役に立たないセミナーを企画したこと。そして実験的な興行を組んだ斉藤氏とタッグを組んだ増田DC。二人の慧眼に敬服する次第。二人がまいた種は色とりどりに花を付けた。丸山正好氏の神経学セミナーもその一つ。

考える力を鍛える

教えない教えという教育方法があるが、指南していたのはまさしくそれ、テクニックを教えない代わりに気づきと、たくさんの新しい知見を示してくれた。中でも安保徹氏の未来免疫学は治療の意味を根底から変えた。もちろん神経学も従来のサブラクセーション理論を上書きするのに十分な情報ではあったがそれは二次的なもので、Why toを徹底的に叩き込まれた。下記に一部分ではあるが紹介する。

  1. 本を読め。ツンドクでもよいから興味のある本は買っておいて損は無し。これほど安価に情報を手に入れることが出来る方法は他にない。
  2. 考えろ。Whyを大切にしろ。なぜという視点をいつも忘れるな。
  3. まとめろ。要約することは理解が本物かどうかの試金石になる。まとめられなければ理解していないと同じ。

今でも十分通用する勉強法になろう。インプットとアウトプットを繰り返すことにより、考える力をつけるのである。

ある時、エネルギー系のセミナーで質問した所、増田DCから「山崎君、君は科学に毒されているよ」とたしなめられた。腰が抜けた。今まで学んできた科学とは一体何だったのか。打ちのめされるとはこういう事を言うのだろうか。真意は分からないが、科学一辺倒では限界があることを示したのであろう。

増田DCの飾らない人柄は多くの人を惹きつけた。見た目からは想像もつかない知性と教養。天は二物を与えずと言うが、服装などには無頓着。また空間把握能力が著しく低いため、車の運転も得意ではなかった。斉藤氏も彼の運転する車で危ない目に遭った。こういった話には枚挙にいとまがない。増田DCの治療院に行ったおり、車を借りて用事を済ませ駐車場に戻ると、左側面がえぐられた様にへこんでいた。全身から血の気が引いた。「先生すいません。当て逃げされました」。ニヤリと笑い「あれは私だよ」と答えた。安堵とともに再び腰が抜けた。

山﨑 徹(やまざき・とおる)
はやま接骨院(高知県高岡郡)院長
柔道整復師
全日本オステオパシー協会(AJOA)大阪支部長
塩川カイロプラクティックスクールガンステッド学部卒

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