《第22回》純粋なるものカイロプラクティックジャーナル

  《第22回》純粋なるもの

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岡井健DCのI Love Chiropractic ! 《第22回》純粋なるもの2012.06.26


カイロジャーナル74号 (2012.6.26発行)より

お元気ですか? 今年も早いもので半分が過ぎようとしています。震災でパニック状態だった昨年とは違い、日本全体が少しずつ落ち着きを取り戻しているのがよくわかります。とは言うものの、まだまだ問題は山積みですよね。その一つに、被災地や避難先での被災者の健康管理もあるでしょう。未だに根気強くボランティアとして東北を訪れている仲間もいるようで、本当に頼もしいというか、誇らしいというか、頭の下がる思いです。震災当時は誰もが熱い思いを抱き行動していましたが、それを長く継続して行うことは大変難しいことだからです。実は震災直後より今のほうが、被災者の方にはカイロがより必要となっているのではないでしょうか? 引き続き多くの仲間が頑張ってくれることを願っています。

先日こちらの日系誌での連載で、今回と同じ「純粋なるもの」というトピックで寄稿しました。そこで混じりっ気なしに、長年にわたって保つことの難しさについて述べました。もちろんカイロでも今それが問題であることを述べたのです。

私がカイロの大学に通っていた20数年前は、カイロ業界は旬を迎えていたというか、景気のいい時代でした。だからカイロの大学も入学希望者が多く、生徒で溢れかえっているという感じでした。時を同じくして、日本もバブル経済の恩恵でカイロ業界も潤っていた時代だったでしょう。

どうして景気が良かったかというと、多くの医療保険によってカイロの治療費がカバーされるようになったからです。アジャストメントだけでなく、カイロプラクターが行う物理療法、X線、検査、リハビリなどにも幅広く適応されるようになったのです。報酬はアジャストメントによって得られるものより、それ以外の物療や検査などによるもののほうが多くなりました。カイロプラクターたちも勉強して、どのサービスや保険のコードを使えば、より多くの報酬を得られるか一生懸命な時代だったのです。

私はそれほどカイロを知らずに、体に興味があるということと、話に聞くカイロというものに興味を持ち、留学中だったアメリカが本場であるということもあって、将来の仕事には面白いかもしれない、程度の気持ちでこの世界に足を踏み入れたのです。カイロの哲学などは一通り知ってはいましたが、入学した学校が哲学にはあまり重きを置かないメディカル寄りの思想を持ったいたので、素直にそこで学んだ私は、学校の中では比較的カイロ哲学の強い、アジャストメントが誰よりも好きな学生だったにもかかわらず、やはり時代の流れに見事に乗っていたのでしょう。

人の体を診るのに医者と同じような高い医学的知識を持ち、地域の医者にカイロを理解してもらい、認めてもらえるようにと考えました。入学するまでほとんどカイロの知識がなかった私が、学校のカラーや当時の業界のトレンド的流れに染まることは、ある意味当然のことだったのです。事実、業界の大部分がそうだったのですから、少数派の純粋なカイロを行う先生にお目にかかる機会も少なかったと言えます。

とにかく、様々なテクニックを学びたい、ということだけが頭にありました。哲学ということはあまり考えたこともなかったし、それを学生たちが議論するような学校でもなかったのです。大好きなガンステッド・セミナーに参加したときも、他の学校の生徒から軽蔑するようなコメントを聞いたり、セミナーのインストラクターからも同様な態度を取られていると感じたこともありました。私はテクニックには自信があったので、なんであんなヘタクソな学生たちに馬鹿にされなきゃいけないんだ? 例えどんな学校だって、生徒がちゃんとアジャストできるんだから問題ないはずだ、と思ったのを覚えています。

カイロは「科学であり、芸術であり、哲学である」と言いますが、私の大学は「科学」の部分が突出していました。そして私は「芸術」の部分に大きく傾倒した学生だったのです。そのようにして「哲学」は私の中で長年置き去りにされていたのです。とにかく、患者に良くなって欲しいという気持ちが強く、より良い治療を模索していくことが良いことだといろいろなものを治療に取り入れていました。

そして、ついには自分のクリニックでカイロのための統合医療を目指し、医者や理学療法士までもを雇う大所帯を持つまでになったのです。それが患者のためであり、経済的にも成功であると思っていました。ですが私の心の奥底では幸せではなかったのです。いくら経済的に成功しても、本当にやりたいことかというとそうではなかったように思います。

やがてアメリカの医療保険制度に変革が起き、保険会社の強烈な規制が一気に進み医療業界全体が締め付けに苦しむことになりました。私も統合医療を諦め、次第にスタッフを減らし身軽なクリニックへと体制を整えました。皮肉なことにスタッフが減り、私自身が患者と接する時間が増えたことで、患者数は以前より増え、スタッフが減って患者が増えるという現象が起こりました。大幅な人件費削減をはじめ、必要経費をカットしていたせいもあり、クリニックの収支としては以前より大きな黒字になりました。

しかし、さらなる保険会社の締め付けが襲ってきたのです。それはカイロプラクターたちがマネジメント会社を設立し、保険会社からの依頼を受け、カイロプラクターの保険請求を厳しく審査することを始めたのです。その会社は現代医学的なきれいごとを言って、理由をつけてはカイロプラクターたちの請求を拒絶したり、カットしたりするものです。要するに、いかにもカイロプラクターというような人たちは、現代医学との考え方の違いから生じる矛盾を突かれ、申請をはねられることになります。言ってみれば同業者に対する裏切り行為のような会社です。彼らは患者を治療することをせずに、同業者に難癖をつけて保険請求をカットし、保険会社から謝礼をもらうのです。

私も最初は憤慨しました。いや今でもある種の不快感を持たずにいられません。しかし、別な考えも生まれてきました。カイロに医療保険が適応されるようになって以来、カイロプラクターはなるべく多くの報酬を得る工夫を考え、現代医学の常識を元に審査する保険会社に同調し、本来のカイロの姿を見失っていたような気がしてなりません。最新の医学知識やリサーチを学ぶことと、保険のために現代医学の常識に同調するのは意味が違うのです。カイロプラクターが現代医学と同じような考えをするようになったのでは、やがて消えていくことになるでしょう。カイロの存在意義は、そのユニークな考え方と手技にあると思います。それを大切にしつつ様々な勉強や研究を重ね併せて、カイロのユニークな部分をより活かしていくべきなのです。今改めて「サブラクセイション、アジャストメント、イネイトインテリジェンス」という3つの言葉の大切さを痛感します。「科学、芸術、哲学」の大切さと、そのバランス感覚の重要性を再認識させられます。

医療保険という魔性のものに魅せられていたカイロプラクターたちが、その恩恵を失いつつある現在、本来あるべき姿を思い出し再発見しているのではないでしょうか。現代医学や保険会社に認められるために行ってきた、多くの研究やリサーチで得た知識という財産を活用し、純粋なるカイロを見つめ直したときに、その理論と技の正当性を説明することができます。訳のわからない人たちが、訳のわからない怪しげな療法をしているのではないかと世間に思われたら、などと必要以上に恐れることはないのです。私たちはなぜカイロが素晴らしいのか、ということを科学的に説明できる知識を持っているのです。あとは、それを元に自信を持って、一般の方々に正しく純粋なカイロを啓蒙していくことに力を注げばいいのです。

日本のカイロが法制化されていないことは、非常に残念なことかもしれませんが、それゆえに保険会社に媚びることなく、純粋にカイロを行っている人の割合が高いとも言えます。私は学位の有無でカイロプラクターの優劣を判断したりしません。アメリカにいる大勢の魂を売ってしまったDCよりも、学位はなくても「サブラクセイション、アジャストメント、イネイトインテリジェンス」を大切にし、優れた「科学、芸術、哲学」を持った、誇り高い日本のカイロプラクターたちを心から尊敬するのです。私も日本のカイロプラクターに負けないように、カイロを実践し啓蒙できるように、これから勉強と努力を重ねていかなければなりません。そして、日本に純粋なカイロが大きく広がることを願うのです。


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