斎藤信次残日録 其の二 電話注文を受けながら….2017.05.01
注文の電話を受けながら、当時数点しかなかったカイロプラクティック関係の本のことを覚えた。大変失礼な話だが、こんな本がなぜ売れるのか、というのがカイロプラクティックに対する最初の偽らざる心境であった。それに、出版物があるにもかかわらず社内でカイロプラクティックのことを教えられる人がいなかった。ならば、私が覚えて問い合わせに答えられるようにしようと、それまで山ほどアルバイトをしてきたが、初めて就職したところで不思議なやる気を出したものである。
もう一つ、たぶん最新のサイエンスの情報を提供している社員たちにとって、カイロプラクティックの事業をやっていることは好ましいことではなかったのだろう。私はこれが、同じ会社の中のことなのにと納得がいかなかった。その雰囲気は今も変わっていないが、カイロプラクティックの事業を担当したことによって社長まで経験させてもらった身からすると、その売上がどれほど会社を救ってくれたかを言いたくもなるが、今更言っても始まらない。わからない、気づかない人間は最後までそのままなのだろうと、なんとも言えない気持ちになる。
カイロを教えてくれる人がいないと書いたが、たまに前社長の池田(冨士太)さんから説明を受けることがあった。池田さんは療術の中のカイロプラクティックという立場で話していたように思えたので、私はカイロプラクティックのことを中心に知ろうと思った。それはさておき、この事業を始めた池田さんの英断がなければ、その後の科学新聞社はもちろんのこと、日本のカイロプラクティック界にとっても、その影響の大きさは計り知れないものがあると思う。
出版物の中でなんと言っても印象に残っているのは、会社にとっても私にとっても『カイロプラクチックの理論・応用・実技』である。昭和44年に出版された日本で最初の専門書だが、いかに半世紀前の話としても、サブラクセーションは亜脱臼、フィロソフィー・サイエンス・アートは理論・応用・実技と訳していた。いかにも科学新聞社らしい訳ではあるが、亜脱臼は完全な間違い、今ならサブラクセーションはサブラクセーション、フィロソフィー・サイエンス・アートもそのままか、哲学・科学・芸術になっている。タイトルのカイロプラクチックという呼び名もカイロプラクティックである。
20年以上前に絶版にした本だが、当時DCの中で最も親しくしていた安藤喜夫に訳し直してもらい、再発行しようとしたことがある。しかし、その彼が1995年9月、カイロプラクティック100年祭で賑わうアメリカへのツアーの団長を務めてもらったほぼひと月後に、37歳の若さで急逝してしまった。近しくしていた自分より年下の人間の死は、それまで感じたこともないショックを感じたことを、今でも思い出すことがある。安藤喜夫の名は今後も登場してくると思うが、茶目っ気たっぷりのかわいらしさを感じさせる、ホントにいい男だった。
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