痛み学NOTE <第28回>交感神経の活動に依存する慢性痛の機序2012.06.26
カイロジャーナル74号 (2012.6.26発行)より
慢性痛症は、侵害刺激によらずに痛みが憎悪する厄介な病態である。例えば、気圧の変化、気温の変化などは、侵害刺激ではないにもかかわらず、こうした自然現象によって痛み信号が発火しやすくなるということがわかっている。こうした気候と痛みの研究は、名古屋大学環境医学研究所が力を入れている分野のようだ。佐藤純・准教授が、交感神経に依存する慢性疼痛の機序に対する仮説(「慢性痛と交感神経系」)を論じている。この仮説の要点は、次の2点にある。
- 低気圧によって内耳の気圧受容器が興奮すると自律神経系とリンクして交感神経が緊張する。
- 気温の低下によって皮膚および中枢における冷受容器が興奮すると自律神経系とリンクする。
ところが、このリンクがどのような機序で作動するかについては、今一つ曖昧なところである。慢性痛のラットモデルでの実験では、交感神経を除去すると疼痛増強は起こらない、という結果がその根拠とされている。一方、気温低下による痛みは交感神経を除去しても消失しない。
どうも気温低下による痛みの増強に、交感神経の活動は必ずしも重要な要因になってはいないようである。ということは、皮膚温の低下が直接的に冷感受容線維を感作させることによって、痛みが増強するルートが存在するのだろう。
気圧による痛みの増強には交感神経が重要な役割を果たし、気温の低下には皮膚の冷却による受容線維の興奮が鍵になっているようである。