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痛み学NOTE <第29回>「訳あり筋」が痛むわけ2012.07.26

カイロジャーナル74号 (2012.6.26発行)より

「駆血帯疼痛試験」を用いた痛みの研究がある。今は故人となられた滋賀医科大学・横田敏勝名誉教授の同門・芝野忠夫先生や小山なつ先生ら三著者による共同研究である(感覚に関する生理学的研究「駆血帯疼痛試験によるバレーボール練習効果判定の可能性についての検討」)。この研究内容はともかくとして、「駆血帯疼痛試験」は血流が悪化した「訳あり筋」と「痛み」との関連を示唆するものとして興味深い。

骨格筋に圧刺激や熱刺激を加えて痛みの閾値を測定すると、筋肉は皮膚などよりも鈍感だという結果になる。それは筋肉の痛覚線維が筋線維そのものにあるではなく、筋線維を包む結合組織にあるからだ。しかしながら、もしも筋に血行障害が起こると、その筋は反復収縮によって容易に痛みが現れる。この現象を指標にしたのが「駆血帯疼痛試験」である。

下のグラフは、芝野忠夫先生と小山なつ先生が行った「駆血帯疼痛試験」の結果である。例えば、上腕の血流を20分間遮断しても、安静位を保っていれば痛くない。ところが最大握力の半分の力で握力計を2秒間隔で握る運動を反復すると、1分以内に痛みが出て、3分以内に耐えがたい痛みが現れるという。

上腕の駆血は、ゴム製のエスマルヒ包帯をきつく巻いて血圧計のマンシェットに空気を送り、内圧を200㎜Hgに高めて調査している。グラフの縦軸は痛みの強度を表しているが、痛み評価スケールは最大の痛みを20として独自に設定している。横軸は秒単位の時間軸を表している。

この調査では30秒ごとに最大握力の50%の力で2秒間握らせ、2秒間のインターバルの後で再び2秒間握ることを反復している。その結果を30秒ごとに独自の痛みスケールで評価したグラフである。3分で最大疼痛評価に至っていることが分かる。

3分以内で最大の痛みがでるわけだから、以外に早い反応である。慢性的な動脈の狭窄がある疾患では、歩行などの反復的な動作で虚血筋に容易に痛みが起きやすいということになる。したがって、高齢者の閉塞性動脈硬化症やバージャー病などは、動きによって当然の如く間歇性跛行や下肢痛となる。こうした病態でなくても、虚血などによる「訳あり筋」は容易に痛み症状を作り出すのだろう。

筋肉における循環不全を伴う病態に対しては、この研究の示唆する結果を逆に運動療法として応用できるだろう。例えば歩行運動を行う場合は、その運動を1分以内に抑えて歩き、3分間完全休息をとる方法も有効な運動療法として活用できそうである。

駆血帯疼痛試験の結果(芝野・小山ら)
駆血帯疼痛試験の結果(芝野・小山ら)


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