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痛み学NOTE <第31回>酸欠で痛むわけ2012.11.04

カイロジャーナル75号 (2012.11.4発行)より

ATP産出の経路には酸素を利用する系(好気性解糖)と、利用しない系(嫌気性解糖)とがある。自動車で例えると、最初のエンジンの駆動に使われるエネルギーは、筋肉中にわずかに存在するATPで、約1秒程度の瞬発力に使われる量である。

この筋肉中のATPが消費されると、次にはやはり筋肉中にあるクレアチンリン酸(CP)からATPを産生することになる。このときの瞬発力は10秒前後のフルパワーとなるが、これらは酸素を必要としないエネルギー産出系である。クレアチンリン酸(CP)は、筋肉中にATPの5倍の量が有るとされている。つまりATPの貯蔵物質としてクレアチンリン酸が存在している。

例えば、瞬発力を使った競技には100m走ダッシュ、相撲、野球のピッチングやバッティング、テニス、ジャンプなどなどがあり、いずれも数秒の短い時間の間にエネルギーは消費される。こうした運動のエネルギー系は酸素を利用しない解糖系で賄うことができる。筋肉の収縮力・瞬発力は強いが持続性のないエネルギー系であり、限界のある ATP産出系に依存しているのだ。

筋肉内に貯蓄されたクレアチンリン酸(CP)が使い尽くされてしまうと、今度はグリコーゲン(糖質)を分解してATPを合成するのだが、この経路でも酸素を使わない。こうした素早い解糖系では酸素を使わないでATPを産出する。グリコーゲンが乳酸に分解される過程で、3分子のATPが作られるのである。かつて、この乳酸が筋肉を収縮させるという仮説(乳酸学説)が主流だった。この学説はノーベル生理医学賞を受賞(1919年)している。ところが後に、乳酸は筋肉の収縮に直接関与しないことが判明した。「乳酸学説」は破綻したのである。その後に、筋肉を収縮させる直接の物質はATPだということになった。実際には、筋肉の収縮や弛緩に関与するのはATP濃度であることが判明したのである。

ATP濃度が増加すると、収縮した筋肉が弛緩するからで、そこに働くのが「エネルギーリン酸結合」を触媒する「クレアチンキナーゼ」や「アデニル酸キナーゼ」ということになる。

解糖過程でピルビン酸を経て乳酸が蓄積されると、その乳酸から解離した水素イオンがタンパク質と結合する。それまでくっついていた陰イオンは、タンパク質から離れて細胞膜を通過して細胞外に流れ出す。カリウム・イオンも流出して細胞外液の濃度が上がる。通常は、ナトリウム/カリウム・ポンプによってナトリウムを排出しカリウム・イオンを取り込む。この細胞内外のバランスを保つためにATPのエネルギーが使われる。ここからミトコンドリアに入って、酸素を利用したクエン酸回路(TCA回路)から電子伝達系で多くのATPを合成するようになるのだが、筋肉に酸素の欠乏が起こると、この経路の活動に支障が起こる。結果的に、ATPの産生が減少する。

さて、酸欠によるATP産生不足が起こるとカリウム・イオンを取り込めない。ますます細胞外液のカリウム・イオン濃度が上昇する。この細胞外のカリウム・イオンが神経線維を興奮させることになる。また、局所の酸素欠乏はアシドーシスを招く。すると血漿プレカリクレインが活性化され、ブラジキニンがつくられる。ブラジキニンを分解するキニナーゼⅡが阻害されると、ブラジキニンは蓄積する一方になる。これが筋肉の痛覚線維を刺激する。こうして虚血による訳あり筋は、痛みを発症することになる。


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