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痛み学NOTE <第41回>「責任TrP」は腹筋にできる2014.08.30

カイロジャーナル80号 (2014.6.22発行)より

トリガーポイントはどのようにして作られるのか① 

トリガーポイントの現象

トリガーポイント(TrP)の発生を理解するためには、まず運動生理学的に正常な筋収縮のメカニズムを理解しておく必要がある。当然、TrPにみられる収縮の状態は、正常な収縮とは異なる。

筋の収縮は、単一の筋肉とその拮抗あるいは共同する作用による筋との関わりで起こるので、その作用は広範囲の筋肉に及ぶことになる。ところがTrPは筋肉の局所的な現象である。したがって一口に「筋の収縮」と言っても、生理的に正常なものとは少し異なる現象である。

TrPにみられるような収縮現象を、英語では「contraction knot」と表現するようだ。要するに筋線維の一部が拘縮した上に「knot」という「結び目」状態、あるいは2本以上の線維が絡み合った「結紮(けっさつ)」状態を指している。

触診すれば、それが帯状に認められることから「索状硬結」とも表現される。筋線維の塊となった硬結である。その帯状の硬結の中に過敏な圧痛部位があれば、それは活性された硬結である。

その硬結を刺激(圧縮・短縮や受動的なストレッチなど)すると、そこから離れた部位に関連痛を起こすことがある。その硬結がTrPである。この関連痛は、患者が日常的に自覚する痛みとして再現されるものだ。押圧すると飛び上がるような痛みがあり、これをジャンプ・サインという。

しかしTrP自体を肉眼で捉えることはできない。触診刺激では局所単収縮反応や鳥肌、発汗などの交感神経反射の現象をみることがあるが、これとて必ずしもTrPの異常所見と決めつけるわけにはいかないだろう。

局所単収縮反応は鍼の刺入時にも起こるらしいし、筋膜や骨膜の刺激でも起こる。だからTrPや筋肉における特異的な反応とは言えないのだろう。もちろん、画像診断、病理検査、血液検査での異常所見もみられない。だから厄介でもある。触診で確認するしかないのだ。

活性TrPは、それを内包する筋筋膜が、持続的あるいは過剰に動かされることで、筋の緊張度が亢進することも誘因になる。あるいは寒冷の急激な変化や加熱など、また心理的緊張状態など情緒的な苦痛などもきっかけになるとされている。これらは血管収縮による反射性の筋痛である。

また、活性TrPがもたらす症状は痛みだけではない。しびれ感、感覚鈍麻のような感覚の異常もみられる。もちろん運動は制限される。自発痛もあり、痛みのため筋力も低下する。視覚や前庭(三半規管)、位置感覚の乱れも生み出す、とJ.G.Travellは『TrP・マニュアル』の中で述べている。

筋の中央部に出来たTrPをセントラルTrPと呼ぶそうだが、TrPは筋の中央部にのみ存在するわけではない。骨の付着部周辺やや筋腱移行部にもよく見られるからである。しかしこれらはセントラルTrPによってコントロールされている、とTravellは記載している。

と言うことは、筋腹にできたセントラル・TrPがキーとなる責任TrPであり、そこから離れた関節やその周辺の組織に関連痛を起こすというのが、あくまでも典型的なパターンなのだろう。

トリガーポイントはどのようにして作られるのか②

古典的仮説「エネルギー危機説」

筋腹にできるTrPが、キーとなる責任TrPだとされている。その根拠はなんだろう。

それには、提唱者であるTravell医師のTrP仮説に遡らなければならない。Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」とされる初期の仮説である。

図1はTravellが『TrP・マニュアル』第2版に掲載されたものであるが、日本語に翻訳されてTrPに関する論文や著作によく引用されている。

Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」の機序

図1 Travell & Simonsによる「エネルギー危機説」の機序

筋の収縮運動は、フィラメントの首振り滑り運動によって実現される。この滑り運動のエネルギー源として働くのがATPであるが、ATPの不足はエネルギー危機説の重要な素因となっている。

筋肉の収縮は、運動点(神経終盤)におけるアセチルコリン(Ach)が分泌されて脱分極することにはじまる(第1ステップ)。

活動電位が横行小菅(T菅)に伝わると、T菅の両側には筋小胞体の一部が2つ接している。その狭間に足タンパク質と呼ばれるCaチャンネルがあり、筋小胞体からCaイオンが放出される時の通り道となる。こうしてCaイオンが放出され、筋線維が持続的に収縮することになる(第2ステップ)。

具体的には、筋節(サルコメア)を構成する太いミオシンFの双頭の分子が、細いアクチンFに放出されたCaイオンに引き寄せられて接触し、連結橋が作られる。この連結橋におけるミオシン双頭の首振り運動によって、アクシンFは筋節中央まで引き込まれ、収縮が維持される。

さらに収縮するためには連結橋をATPが一旦壊して(第3ステップ)、再収縮させなければならない。その再収縮ために、再びCaイオンが必要となる。ATPが連結を破壊する。

この時点で、Caイオンは筋小胞体に吸収されていなければならない。この一連の反復で筋収縮が行われる。TrPは、この3つのステップのプロセスにおける不具合で生じるということだろう。



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